「ハッハッハ! すまないみんな! 心配をかけた!」
すでに日も傾いた夕方。巨大な門の前にヴァーサスの笑い声が響く。
無事記憶の戻ったヴァーサスだったが、その代償として自分が記憶を失っている間の事は綺麗さっぱり忘れてしまっていた。一応の説明は受けたのだが、ドレスがやってきたところしか本人は覚えてない。
「なんだぁ!? せっかく面白そうだからって俺も準備してたのによ! まあ、こうやって美味いもん食えたからいいけどよ!」
「あははー! ぎっくん、お化粧までして待ってたのにねー! とっても似合ってたよ! 僕、またしてほしいなー!」
ムキムキに鍛え上げられた強靱な肉体に、凶暴なノコギリ歯を噛み合わせて悔しがるのはギガンテスだ。その肩には満面の笑みのルルトアも乗っている。
後で聞いた話によると、ドレスの次はギガンテスが『ギガンコです……あなたとは宿命で結ばれた強敵です……』などと言いながら女装して入る予定だったらしい。なんと恐ろしい。
二人は今ドレス直属の給仕部隊が用意したバーベキューをもぐもぐと頬張っている。辺りにはこんがりと焼けた高級肉と新鮮な野菜の香りが漂い、否が応でも食欲をそそるエリアになっていた。
「しかし今回は本当に皆に心配をかけてしまいすまなかった! 覚えては居ないのだが、傷ついた俺を運び、そのあともずっと見舞ってくれていたのだろう? 心から感謝する……ありがとう!」
「クックック……なぁに、気にするな。全ては最愛のヴァーサスのため……それに私は大層満足したぞ……あのヴァーサスの優しさ……分厚く固い胸のぬくもり……力強い腕の感触……はぅぅぅ……今思いだしても身震いが止まらぬ……っ」
「ちょっ……なんですかそれ!? 黒姫さんあの部屋でヴァーサスと何してたんですか!? 黒姫さんが変なことはしないって言うから私もやったのに! え? 私ですか? 私はいたっていつもどおりでしたよ? 変なこととか全然ないです。潔白です! ふんす!」
「わ、私は……手をっ! 師匠に手を握って貰いました! あと、とっても素敵だって言って貰えました……はわわ……っ」
黒姫はぞくぞくと肩を震わせて一人くねくねと身もだえし、リドルは自らの清廉潔白さをアピールして胸を張っていた。ミズハはヴァーサスに握り締められた部分にそっと手を重ね、真っ赤になっている。
「ハハッ! まあ最後は僕とヴァーサスの熱い友情が全てを解決したわけだし、僕もここまで来た甲斐があったというものさ! 本当はもっと色々したかったんだけど、今回はこれで良しとしようじゃないか!」
「いきなり皇帝さんが診療所にやってきたときはびっくりどころじゃなかったですよ……でもどうやってヴァーサスが記憶喪失になったのを知ったんです?」
「皇帝はなんでも知っているのさ。ハハッ!」
「ハハッ! じゃないですよ! 誤魔化さないでください! まさか家とか門に変な機械とかくっつけてるんじゃ!?」
「さて、どうだろうね?」
ドレスはすでに甲冑を脱いだラフな格好で談笑に花を咲かせている。おそらく今日も様々な公務などがあったはずだが、そういうのはどうでもいいのだろうか。全く気にした様子がない。
「こうしてドレスの力まで借りることになってしまったこと、本当にすまなかった。今回は全て俺の不覚だ。許して欲しい」
「いいのさヴァーサス。でもそれで思い出したけど、君をそこまで傷つけた相手って一体何者なんだい? 黒姫さんやリドル君が来たときには気配もなかったって聞いてるから、もう倒すことはできたんだろうけど」
「うむ! あれは俺の想像を越えた強敵であった。実は俺が門番活動をしている最中、空から謎の石ころが降ってきてな――――」
――――その後、隕石を素手でキャッチしようとして自爆したというヴァーサスのあまりにもあんまりな話に、リドルは激怒し、黒姫は爆笑し、ミズハは感心し、ドレスは今度自分も試してみようと頷くことになる。
結果として、脳筋のヴァーサスが全て悪かったとなった後、ヴァーサスはリドルを心配させた罰をたっぷりと受け、黒姫からは記憶を失っていた間に口走ったあれやこれの実演を求めらた。
ヴァーサスは今回の事件で、その心に二度と隕石は素手でキャッチするまいという苦くも甘い教訓を刻みつけることになったのであった――――。
『門番 VS 記憶喪失 門番○ 記憶喪失● 決まり手:男同士の熱い友情』