今日もがんばるまめたんっ!
今日もがんばるまめたんっ!

今日もがんばるまめたんっ!

 

「準備はいい? ピコリー」

「はいっ! いつでもいけますよっ」

 

 どこまでも広がる青空の下。
 まっすぐに続く街道を前に、旅支度を終えたアルルンは自分と同じように旅の準備を終えた緑髪の少女、ピコリーに声をかけた。

 

「ピコリーのお家はここからもっと北の方なんだよね? 僕、そこまで北の方には行ったことがないから、凄く楽しみっ!」

「うむ。北とは言っても、ハイランスの白の塔ほどの極地ではない。今の季節なら、そこまで雪が深くなる心配も無いだろう」

 

 互いの顔を見合わせて笑みを浮かべるアルルンとピコリーに、やはり大きな荷物を背負った勇者レオスの一行が声をかけた。

 
「ワッハッハッハ! 若い二人の旅に邪魔しちまって悪ぃなぁ!」

「いえいえ、神様は魔王の力も魔物も消えたと言ってましたが、そもそも魔物の存在はこの世界の生態系に組み込まれていましたからねぇ……。魔物がいなくなったことで、世界がどのように変化したのかもまだわかりません。安全だとわかるまでは、私たちの役目は終わりませんよ。はい」

「ピコリーさんも、我々が追い立てたことでさぞ辛く恐ろしい思いをしてきたことでしょう。せめて、故郷へ帰る道程の護衛くらいはさせてください」

 

 ヤグラはそう言ってアルルンの頭をポンポンと撫で、ルーントレスは普段通りにレオスの隣に寄り添った。デュオキスは真っ先にピコリーの前で深々と頭を下げると、改めて謝罪の言葉を口にした。

 

「そ、そんなっ! 皆さんはただ、勇者としてのお仕事をされてただけですし……」

「レオスさん、それに皆さんも……ありがとうございますっ」

 

 今、アルルン達は連王国外れの街から出てすぐの場所にいた。
 ロエンドールとの戦いから一週間ほどが経過して激闘の傷も癒えた面々は、魔王でなくなったピコリーを、彼女の故郷へと送り届けるべく再びパーティーを結成したのだ。

 

「でも……その、アルルンは良かったんですか? 魔物もいなくなったわけですし、アルルンだって一度お家に帰りたいなとか、そういうのあったんじゃ……」

「ううん。僕は家から出るとき、立派なタンクになったら帰りますって皆と約束してるんだ。僕はまだ立派なタンクになれてないし……。だから、家には帰らないよっ!」

「そ、そうなんだ?」

 

 鼻息も荒くそう宣言するアルルンの姿に、レオス達は皆笑みを浮かべ、ピコリーは感嘆の声を上げた。
 この一連の冒険で間違いなく大きく成長したアルルンだったが、やはりまだまだその内面には、かつての少々頑固で無鉄砲な部分が相当に残っているようだ。だが――――。

 

「それに……ピコリーと約束したから」

「――え?」

 

 だが、たとえゆっくりでも少年は成長する。少しずつ変わっていく部分もあれば、何かの切っ掛けで大きく変わる部分もある。

 

「ずっとピコリーと一緒にいるって――――あ、でももちろん、ピコリーが嫌ならしないけど……」

「い、嫌なわけないですっ! こ、こちらこそ……よろしくお願いしますですっ!」

 

 ピコリーを見つめ、はっきりと言い切るアルルン。アルルンの顔は真剣そのものだったが、面と向かってそんなことを言われたピコリーは、顔を真っ赤にしてあたふたと礼儀正しく頭を下げた。

 

「――――全員準備はできたようだな。」

「フェア様!」

 

 微笑ましい旅立ちの光景の中、普段通りの軽装で最後に現れたフェアはゆうゆうと一行を見回し、軽く頷いた。

 

「しかしまさか勇者の俺たちが魔王軍のあんたらとパーティーを組むたぁ、本当に平和になったってことなんだなぁ。俺もこの旅が終わったら、また新しい仕事を探さねぇと……」

「仕事……そういえば、フェア様はこの旅が終わったらどうされるんですか?」

 

 その場に現れたフェアの姿を確認すると、一行はゆっくりと目的地に向かって歩み始めた。かつてのようにキャラバンを使うことも無く、魔物の気配に怯えることも無い。
 
 魔王一行と勇者パーティー。
 それぞれの目的は違ったが、互いに願っていた平和な世界がそこにはあった。

 

「クックック……そう案ずるな。私にはまだ重要な役目がある。アルルンよ、貴様を一人前のタンクに育て上げるという、師匠としての役目がなッ!」

「ええ!? フェア様、まだ僕に色々教えてくれるんですかっ!?」

「無論だ……貴様にはまだまだ教えていないことが山ほどある。まだ本格的な始動には至らなかったが、貴様を我が愛玩ちびっことして……いや、タンク以外の様々な知識も教えてやろうと思ってな……ッ」

「わぁ……! ありがとうございます、フェア様!」

 

 フェアのその言葉に、あまりにも純粋な笑みを浮かべるアルルン。しかしそれを横で聞いていたピコリーとレオスは即座に割って入った。

 

「ちょ、ちょっとフェア様っ!? アルルンに何を教えるつもりなんですか!? そんなのこの私が絶対に許しませんよっ! 教えるなら私が! 私がやりますっ!」

「なんだこのアルルンに向けられる邪悪な気配は!? おのれ……やはり災厄の魔女というのは真であったかッ!」

 

 だが、ピコリーとレオスの剣幕にも全く動じる様子を見せず、フェアはその赤い瞳でアルルンを見つめると、穏やかな声で続けた。

 

「クククッ! アルルンよ、たとえ魔王が消え去り、魔物の脅威が無くなってもタンクを必要とする者は世界中にいる。今の貴様なら、それも良くわかっていよう?」

「はいっ! フェア様!」

「ピコリーは、私が数千年もの間見守り続けた最後の魔王だ。今の貴様ではあまりにも頼りなくて預けるには足りぬ。もっと鍛えてやるから、覚悟しておくのだなッ!」

「わかりましたっ! 僕、もっともっと頑張って、絶対に立派なタンクになってみせますっ!」

「わ、私もっ! アルルンのこと、ずーーーーっと……傍で応援しますからっ!」

 

 元気よく返事をするアルルンにフェアは満足げな笑みを浮かべると、そのままつかつかと歩みを進めた。
 そんなフェアの様子にピコリーはやれやれと息をつきつつもアルルンのすぐ隣に並び、レオスは眉間に皺を寄せ、未だ油断せずにフェアを見つめた。

 そしてそんな彼らの様子を、他の勇者パーティーの面々は尚も変わらぬ笑顔を浮かべ、それぞれの歩みで街道を共に歩いて行った――――。

 

 

 ――――かつて、その幼さ故に旅の途上で置き去りにされた小さなタンク。

 
 しかし彼は諦めず、たとえどんな時でも懸命に考え、走り続けた。
 出会った全ての人に対して素直に向き合い、正直に接し続けた。

 彼が全力で走り抜けた道の先――――そこには、今度こそ離れることの無い絆を得て集まった多くの仲間達がいた。

 これからの彼は一人のタンクとして、憎しみヘイト以外の多くの想いを集めることになるだろう。

 そうして集めた無数の想いが、再び新しい道を切り開いていくと信じながら――――。
 

 

「よーし! これからも頑張るぞーっ!」
 

 

 まめたんくっ! 完

 

 

 

 

 

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