守られてもいいまめたんっ!
守られてもいいまめたんっ!

守られてもいいまめたんっ!

 

「ふむ……やはり末恐ろしい力よ。神がしっぽを巻いて逃げ出すのも頷ける。なあ、貴様もそうは思わんか?」

「グガアアアアア! 待てええ! 逃げるなああああ!」

 

 黒煙渦巻くキャラバンの上空。次々と地面に降り立ち、全挑発を発動したアルルンめがけて殺到する連王国の士官達を眺めながら呟くフェア。
 フェアの周囲には、彼女自身と同じような球形の障壁に保護された連王国の士官達が無傷で浮かんでいたが、彼らもまたその目を血走らせてアルルンめがけて襲いかかろうともがいていた。

 

「もはや聞こえてもいないか。 ――――しかし妙だな。此奴らが連王国でも相当な戦力であることは理解できるが、魔王を捕えようと思い立つような者共が、ただ強大な戦力を持っただけで私や魔王に勝てると考えるだろうか?」

 

 フェアは一人呟き、その美しい相貌に思案の色を浮かべる。
 この数千年の間、魔王を討伐しようと試みた戦士や国家は数え切れないほど存在した。フェアはなるべく穏便に済ませてきたつもりだが、中には見せしめも意味も含めて手酷い反撃を喰らわせたことも何度となくある。

 十万を超える大軍勢を壊滅させ、天下無双と謳われた豪傑を赤子同然にひねり潰した。しかもそれらは伝説ではなく現在進行形で続いているのだ。
 重武装の飛翔船数十隻。たったこの程度で魔女と魔王を打倒できると試算されるような、生ぬるい災厄を撒き散らしてきたわけではない。

「となると、やはりまだ油断は出来んか。あまり気は乗らんが、久しぶりに真面目に働くとするか」

 フェアは言うと、自身の周囲に浮かべた士官達をゆっくりと地面に下ろしていった――――。

 

 ●    ●    ●

 

「うおおおお! 待てええええ! 止まれええええ!」

「許さない! 許さないいいい!」

「よーし……うまくいった! でも、大事なのはここからなんだ!」

 

 上空から次々に降下してくる連王国の飛翔船。
 地面につくなり雪崩のように押し寄せてくる士官達をみやりながら、アルルンが決意を宿した瞳で頷いた。
 
 実際の所、その真の力の一端を発揮し始めたとは言え、アルルンの全挑発オールヘイトは未だに不完全なものだ。
 先ほどはたまたまエクス一人に対して使用したため、憤怒に燃えるエクスの攻撃を受けてもアルルンはダメージを受けなかった。
 しかし今回のように大群に対して使った場合、いかに彼らが正常な判断力を奪われているとはいえ、その危険度はサーディランでアルルンが吹き飛ばされた時とさして変わらない。もし今のアルルンがサーディランで覚醒した全挑発オールヘイトを使ったとしても、結局アルルンは自身に集まるヘイトを支えきれず、街を守ることはできない。だがアルルンは――――。

 

「タンクは真っ先に倒されてはいけないんだ! たとえ他の皆が傷ついても最後まで戦場に立ち続けて、皆の命と希望を繋ぐのも大切な役目! そのために、力を貸して――――ウゴゴさんっ!」

「うおおおおおん! 任せろアルルーーン!」

 

 瞬間、アルルンは胸元から小さな箱を取り出すと、一息にその蓋を開けた。
 するとどうだろう。その開かれた箱から勢いよく掌ほどの大きさの人影が飛び出し、それはみるみるうちに見上げるほどの大きさになっていく。

 

「俺はなにをすればいい? 向かってくるあいつらを殴れば良いのかぁ?」

「ううん! そんなことしなくて大丈夫っ! 僕をウゴゴさんの背中に乗せて、この草原をぐるぐる走ってもらってもいい?」

「お安いご用だぁ!」

 

 それは、猫の森で連王国の騎士団からはぐれた巨人――――ウゴゴだった。
 連王国の呪縛からアルルンの活躍で逃れることが出来たウゴゴは、それから今日に至るまでの数日間ですっかりアルルンと打ち解けていたのだ。

 

「ワッハッハ! おにごっこだぁ!」

 

 ウゴゴは目の前に立つ小さなアルルンに黄ばんだ歯を見せてにぃと笑うと、その太い指でアルルンをつまみ上げて肩に乗せ、そのまま迫り来る兵士達に背を向けてどすんどすんと走り始めた。

 

「ありがとうウゴゴさんっ!」

 

 それはサーディランの時と同様、自身にヘイトを集めた上で連れ回す戦法。
 しかしあの時と今では決定的に違う事がある。

 それは――――。

 

「うむうむ……今の貴様にはこの災厄の魔女フェアという最強のダメージディーラーがいるッ! よいかアルルンよ、良く覚えておくがいい。タンクという役目は、決して一人では成り立たない。頼れる仲間がいるからこそ、その力を十全に発揮することができるのだッ!」

「フェア様っ! お願いしますっ!」

 

 どすんどすんと草原の上を踏み抜ける巨人と、その肩にちょこんと乗ったアルルン。その後方から追いすがる兵士達の眼前に立ち塞がるようにして出現したフェアが、そのローブをはためかせて天に向かって手をかざした。

 

「雷光よ! 慈悲深き輝きと共に彼の者達に戒めを与えんッ!」

 

 フェアがそう叫ぶと同時。雲一つない青空から一条の稲妻が地面へと叩きつけられた。
 大地に穿たれた稲妻はアルルンを追う兵士達めがけて拡散すると、その足下から蛇のように頭頂部までを駆け抜け、感電させる。

 

「うぎゃー!」

「あばばばーー!」

 

 一瞬の閃光のあと、そこにはぷすぷすと白い湯気のような煙を上げ、揃って頭髪をチリチリにした連王国の兵士達が横たわっていた――――。

 

「はわわ……ふぇ、フェア様、この方達は……」

「そう心配そうな顔をするな。殺してはいない。しばし髪型がうまく決まらぬようになってもらっただけだ。しばらくすれば目覚めるであろう」

「ほっ……」

 

 フェアの話を聞き、巨人の肩で安堵の表情を浮かべるアルルン。そんなアルルンを見て、フェアは先ほどまでとは違う穏やかな笑みを浮かべた。

 

「アルルンよ、貴様はまだ幼い。今のようにもっと遠慮なく仲間を頼れ。貴様がそう思っているように、貴様と共に戦う仲間達も、皆貴様のことを助けたいと思っているのだ――――もちろん、この私もな」

「ウゴゴー! ウゴゴももっとアルルンと遊びたいいい!」

「フェア様、ウゴゴさん――――はいっ!」

 

 フェアのその言葉を受けたアルルンは、小躍りするウゴゴの肩にしがみつきながらうっすらと涙を滲ませて元気よく返事をした。
 それは、間違いなくアルルンがタンクとして大きな階段を上った瞬間だった。

 だがしかし、連王国の軍勢を撃退したかに見えたフェアとアルルンの耳に、キャラバンの方角から更なる爆発音が届いた。

 

「っ!? キャラバンが……ピコリーっ!?」

「馬鹿な……今あの場所にはエクスとピコリーの魔力しか感じぬぞ?」

 

 驚き、キャラバンの方角に目を向けるアルルン達。
 しかしその視線の先では、無情にも火柱を上げるキャラバンがもうもうと黒煙を立ち上らせているのであった――――。

 

 

 

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