さらに襲われるまめたんっ!
さらに襲われるまめたんっ!

さらに襲われるまめたんっ!

 

「ふぅ……これは困ったね。アルルン君、君がとても心優しい少年だということは良くわかったよ。君たちにしてしまった仕打ちを心から謝罪させて欲しい。だからもし良かったら――――ここから私を出してくれないかなぁ!?」

「ええっ? そ、それは……」

 

 移動を続けるキャラバンの一室。

 掌サイズとなったガラス瓶の中で、深い憂いの表情を浮かべるエクスがアルルンに頭を下げ、大げさな動作で瓶から出してくれるように懇願する。

 

「だめーっ! 駄目ですよアルルンっ! この人はアルルンを殺そうとしたんです! こんな危ない人、ずーっと瓶詰めにされていればいいんですっ!」

 

 瓶詰めにされたエクスの姿に哀れむような声を発するアルルンだったが、二人のやりとりを傍で見ていたピコリーはすかさず瓶を掴んで持ち上げると、中のエクスに対してその緑色の瞳を鋭く向けた。

 

「そう言わずにどうか機嫌を直してくないかな? 私は確かにアークエネ……いや、アルルン君を攻撃はしたけど、魔王である君には一切危害を加えるつもりもないし、加えてもいないだろう?」

「そんな言い方を平気でする人……嫌いですっ! 私にとってアルルンは大切な……! えーっと、大切な……っ! んーっと……とにかく大切なんですっ! 私にどうこうとか、そういう問題じゃないんですっ!」

 

 ピコリーはそう言うと、乱暴に法皇の瓶詰めを棚の上に置き、アルルンの手を取ってその場を離れた。

 

「参ったなぁ……魔王もツインシールドも、いつまで経ってもあまり変わらないねぇ……」

「自業自得だ馬鹿者が。のこのこやってきて全挑発(オールヘイト)の覚醒を促した挙げ句、こうして瓶詰めにされるとは……元同僚とはいえあまりにも情けないものだ」

 

 瓶の中でやれやれと首を振り、困ったとばかりにその場に腰を下ろすエクス。

 フェアはそんなエクスの入った瓶の横にピコリーと入れ替わるようにして歩み寄ると、腰を屈めてしげしげとエクスを眺めた。

 

「元同僚って……さっきのお二人の会話からもしかしてとは思ってたんですけど、法皇様もフェア様と同じ天使様なんですか?」

「ああそうだよ。僕と、僕の妹のリレア。そしてこのフェアの三人がこの世界に残っている最後の天使だね。昔はもっと大勢いたんだけど、神様についていったり、自分からどこかに行ってしまったりして、随分と減ってしまったものさ」

「へぇ……昔は天使様も大勢いらっしゃったんですね」

 

 二人の会話からフェアとエクスの関係について尋ねるピコリーとアルルン。

 エクスはあっさりと自身も天使であることを告げると、昔を懐かしむように深い息をついた。

 そしてそんなエクスに対し、フェアは丸めていた背をまっすぐに伸ばすと、あざ笑うような笑みでエクスを見下ろす。

 

「天使などと言っても、こうして瓶詰めにされてしまえば無力なものよ。エクスよ、貴様も長く法皇などと崇められているうちにボケが進行したのではないか? 常に刺激を求める私と違ってなッ!」

「うーん……言われてみればそうかもしれないねぇ……私も昔は現場第一主義だったけど、最近ではすっかり外に出るのも億劫になってしまったよ。とはいえ、これから君はどうするつもりなんだい? ツインシールドが相変わらずツインシールドだったのはとりあえず良かったけど、今は昔とは状況が違う。万が一ってこともあるんじゃないかな?」

「そうならぬように私が鍛えるつもりだったのだ。全く、本当に余計なことをしてくれた。アルルンを真っ当なタンクとして育成し、あわよくば私の手籠めにする計画が全て台無しではないかッ!」

「フェア様……まだ諦めてなかったんですね……」

 

 災厄の魔女という呼び名に相応しい凶相を浮かべて舌なめずりするフェアに、ピコリーはげんなりとした顔で呆れたような声を上げた。

 

「あの……でも法皇様はなんで僕を殺そうとしたんでしょうか? 色々考えてみたんですけど、僕には身に覚えがなくて――――」

 

 するとそこで二人の話をピコリーと共に聞いていたアルルンがエクスに尋ねる。

 アルルン自身、法皇直々に抹殺されるような悪事を働いた覚えは当然ながらないからだ。

 

「うん、別に君は悪くないよ。悪いのは全挑発(オールヘイト)――――全挑発(オールヘイト)の力が強すぎて危ないっていうのもあるけど、私が君とフェアのセットを危険視してこうしてやってきたのは、もっと別の理由だよ」

「やっぱりそうなんですね……それは僕が全挑発(オールヘイト)の使い方をちゃんと勉強して、危ない使い方をしないように気をつけるだけじゃ防げないのでしょうか?」

「難しいんじゃないかな……魔王の力もそうだけど、君たち人間はそもそも全挑発(オールヘイト)みたいな大きすぎる力を制御できるようには作られていないんだよ」

「大きすぎる力……確かにそうかもしれません……」

 

 アルルンの問いに、全挑発(オールヘイト)の危険性を説くエクス。

 エクスの言う大きすぎる力という言葉に、アルルンもピコリーも、二人共が同じように自身の持つ力に思いを巡らせる。

 

「本当なら、そういう大きすぎる力を上手く管理したり、制御するのを手伝ったりするのも私たち天使や神様の役目だったんだけどねぇ……神様はどこかに行っちゃったしねぇ……全部君のご先祖様のせいでねぇ……」

「僕のご先祖様が……実は、それも気になってて……」

「安心しなよ。こうなった以上隠したり勿体ぶってても仕方ないからねぇ。私も瓶詰めにされて暇だし、ちゃんと全部答えてあげるよ」

「ありがとうございますっ」

 

 エクスはそう言ってアルルンににっこりと笑みを向けた。

 瓶詰めにされているエクスがすでに可哀想になってきているアルルンも、エクスのその言葉に元気よく答えた――――。

 が、その時である。

 

「ぬ――――っ!?」

 

 キャラバン全体を大きく揺らす凄まじい爆発がいくつも巻き起こった。

 幸いキャラバンはフェアの展開していた障壁によって無事だったが、障壁が簡易的なものだったこともあり、爆発の衝撃は室内に居るアルルン達にも到達した。

 

「うわわわっ!」

「はわわーーっ! いきなりなんですかーっ!?」

「ほう……これはまた大層な身の程知らず共がやってきたようだな?」

 

 凄まじい衝撃に揺れるキャラバン。フェアはその揺れを片手を上げて展開した魔力で制御すると、窓枠から外を覗き込んで上空を見つめた。

 

「大丈夫かいフェア? もしかして、君たちはしょっちゅうこうやって追われているのかな?」

「この私がそんな手抜かりをすると思うか? ふむ、あの紋章には覚えがある――――連王国か」

 

 フェアの見上げた視線の先。漆黒の船体に黄金の縁取りが施された重武装の大艦隊がさらなる砲撃のために砲の角度を修正する。

 それは、マイラルド連王国の誇る空飛ぶ船による大艦隊。一糸乱れぬその見事な戦列は、まるで大空をうねり飛ぶ巨大な龍のように見えた――――。

 

 

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