戦いの軌跡
戦いの軌跡

戦いの軌跡

 

「飛翔船だ! エリンディアの騎士達が来てくれたぞ!!」

「全軍反転! エリンディアと共に帝国軍の本陣を突き破れ!!」

 

 星歴977年。

 季の節は八。

 セトリスでの死闘から二ヶ月が経った。

 シータたち独立騎士団は、大陸南東に位置するシャンドラヴァ王国と帝国の戦いに参戦。

 広大な熱帯雨林を戦場に、参戦から僅か数日で帝国軍を壊滅寸前にまで追い込む大活躍を見せていた。

 

「エリンディアめ……我々がいつまでも手をこまねいていると思うなよ! 高空弩砲用意! エリンディアの飛翔船は弩砲で落とす! 天契機カイディル隊は構わずシャンドラヴァの本陣を叩け!!」

 

 地平線まで広がる広大な密林地帯。

 その上空に現れた蒼穹そうきゅうの飛翔船――トーンライディールに、帝国軍は急遽配備された高空弩砲の照準を合わせる。

 独立騎士団が遠征を開始して三ヶ月。

 その名声は早くも大陸各国に知れ渡りつつあり、帝国軍もトーンライディールやイルレアルタへの対策を講じ始めていた。だが――。

 

「全弩砲、撃ち方はじ――」

「お、お待ち下さい! エリンディアの飛翔船が天契機を射出! あれは……ほ、星砕きです! 星砕きが出ました!!」

「なん――!?」

 

 だがしかし。トーンライディールを狙う帝国の弩砲が放たれることはなかった。

 帝国軍を率いる騎士団長の言葉は、最後まで発される前に弩砲と共に光の矢に飲まれて消えた。

 船底から空中に飛び出したイルレアルタは、木々で巧妙に偽装された全ての弩砲めがけて矢の雨を降らせて破壊。

 そのまま深い森に着地すると、驚いた鳥達の鳴き声に包まれて再び高空へと跳躍。

 進軍する帝国の天契機を背後から射貫き、一瞬にして帝国軍が保有する重戦力の大半を壊滅せしめたのだ。

 

「がああ――ッ!?」

「一機やられた!」

「うろたえるな! たとえ星砕きが相手でも、帝国騎士の名に恥じぬ戦いを――!!」

 

 それは、トーンライディールの出現から一分とかからぬ間の出来事。

 指揮官を失った帝国軍は大混乱に陥り、残された二機の従騎士ヴァレット級は互いに背中合わせとなってイルレアルタの追撃に備える。しかし――。

 

「――意気込んでいるところ悪いが、戦いはここまでだ!!」

「な……っ!?」

 

 その時。イルレアルタに気を取られていた従騎士級の一機が、間を置いて高空から飛来した純白の天契機――ルーアトランに、足と腕を同時に切断されて倒れる。

 

「居眠りの騎士!? いつの間にこの距離まで!?」

「なーっはっは! 私とシータ君の連携も、なかなか板についてきたものだなっ――と!!」

 

 一閃。

 帝国騎士の疑問にも答えず、流麗なルーアトランの斬撃が最後の一機を切り裂く。

 

「やったぞ! エリンディアの騎士が帝国の天契機を落とした!!」

「天契機さえなければ、森での戦いに不慣れな帝国軍など恐るるに足りぬ! 全軍突撃ぃぃぃいい!!」

 

 重い地鳴りを響かせ、ルーアトランに両足を切り裂かれた従騎士級が倒れる。

 それを見たシャンドラヴァ軍は一斉に士気を上げると、〝太鼓や笛などの楽器を盛大に鳴らして〟反撃を開始した。

 

「ははは! 歓迎会の時も凄かったが、この国の人々はどんな時でも賑やかでいいな!!」

 

 この短い交戦で、シャンドラヴァ侵略を担う帝国軍は主力の天契機と指揮官を同時に失った。

 もはや戦いを継続することは不可能だろう。

 

「うまくいきましたね、リアンさんっ」

「コケー!」

「シータ君が危険な囮役を引き受けてくれたおかげで、私も簡単に敵に近付くことが出来た。いつもありがとう!」

「はいっ!」

 

 当初の役目を終えたシータは、イルレアルタをルーアトランの隣にふわりと着地させる。

 まだ二人が出会ったばかりの頃――戦いの度に無数の傷を負っていた二機が、たった今戦いを終えた直後とは思えぬ美麗な姿のまま並び立つ。

 今や名実共に独立騎士団の主力となった二機の姿は、シータとリアン――二人の絆と戦いの技量が日増しに深く、より強い物になっている何よりの証でもあった。

 

「――二人ともお疲れ様。まだ完全に安心はできないけれど、この勝利でシャンドラヴァも落ち着くと思う」

 

 そしてその上空。

 戦いの趨勢が定まったのを確認し、白と灰色の二頭の空鯨そらくじらに牽かれたトーンライディールがゆっくりと舞い降りる。

 

「これで私たちが支援した国は三つ……ソーリーン様が仰っていたように、私たち独立騎士団の名声も広がってきているそうよ」

「それは良かった!」

「じゃあ、次はどこに行くんでしょう?」

「そうね……これまで私たちは、自分たちの考えで戦う場所を選んできた。だけど次はそうじゃない……次に向かう国は、先方から私たちに〝支援の要請を送ってきた〟の」

 

 トーンライディールの甲板に姿を見せ、ニアは目覚ましい活躍を見せる二人の姿に安心したような笑みを浮かべる。

 そして腕に抱えた分厚い本をぱらぱらとめくると、そこに挟まれた一枚の書状を取り出して見せた。

 

「これから私たちが向かうのは、大陸北西部を治める〝エーテルリア連邦〟……アドコーラス帝国に並ぶ、ケルドリア大陸最大の国力と軍事力を持つ国よ」

 

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