リアンは寝るのが好きだ。
出来ることなら、一日中だって寝ていたい。
働くことが嫌いなわけではない。
エリンディア王国の騎士であることには誇りを持っているし、女王陛下と祖国、そして国の人々のために命をかけることだってできる。
代々王国の騎士として国を守り抜いた両親や、ご先祖のことも心から尊敬している。
だがそれと同じくらい、リアンは寝るのが好きだ。
横になれるなら馬小屋だろうと、大木の根元だろうと構わない。
暖かな日差しの下で目を閉じると幸せな気持ちになる。
もちろん、丁寧に整えられた清潔なベッドの上で寝られるなら最高だ。
放っておけば三日三晩でも寝続けるリアンを見て、彼女の両親は彼女が生来の大病なのではととても心配したらしい。
しかし実際にはそんなことはなく、寝れば寝るほど研ぎ澄まされるリアンの剣の腕前は、今や大陸でも五指に入ると噂されるほど。
単純な腕力はもちろん、天契機の扱いにおいても周辺諸国でリアンに勝る者はもはや誰もいない。
事あるごとに寝てしまうリアンがルーアトランを操る守護騎士として認められたのも、全てはその睡眠時間を補ってありあまる才あってこそだった。
そんなリアンの目覚めはいつも遅い。
その日もすでに太陽は空高く昇り、開け放たれた部屋の窓からは城下町の賑やかな喧噪がうっすらと聞こえて来る。
もしリアンに騎士としての誇りと使命感がなければ、彼女は再び寝具に顔を埋めて二度寝を決め込んでいただろう。
しかし由緒あるエリンディア王国の騎士であるリアンは、そのような〝だらしない真似〟はしない。
やがて彼女は暖かな寝具から放たれる〝二度寝の誘惑〟を振り切り、冷たい雪解け水の張られた洗面台に勢い良く顔を突っ込んで無理矢理目を覚ますと、手早く身だしなみを整えて部屋を出る。
そうして颯爽と城内に現れたリアンの凜々しい姿は、すれ違う全ての人々からまさしく騎士の鑑と見えたはずだ……彼女が姿を現したのが〝真昼でなければ〟だが。
怠惰の騎士。
居眠りの騎士。
エリンディアのうたたね騎士。
眠りを愛するリアンを揶揄する蔑称は数多い。
しかし彼女はそんなことを気にはしない。
国と民を守りたいという気持ちも。
眠ることが大好きなことも。
どちらも彼女の嘘偽りのない願いだからだ。
やがて遅すぎる朝食を終えたリアンは、大きく開かれた城門を抜けて王都へと向かう。
そこには彼女が心から大切に思い、守ると決めた大勢の民がいる。
今日も決意を固め、リアンは祖国の頭上に広がる澄み渡る青空と、遙か彼方に連なる白い山脈に目を細める。
そして〝今日も良い昼寝日和になりそうだ〟と、何度もうんうんと頷きながら街へと降りていくのであった。
本編で語られた設定を長文で語りなおした感じですね。順番的にはこちらを先に書かれたのでしょうが。特に新しい情報はなくても描写が増えたことでキャラクターへの理解が深まったと思います。
それにしても、この睡眠時間の異常な長さと、訓練時間は短いはずなのに卓越した戦闘能力のあいだにはなにか秘密があるのか。別にないならないでも全然OKなんですが、そこらも気にしながら本編を読み進めていきます!
>>天城リョウ様
きえーーー!!天城さんこんばんは!!!!!今回の短編もこうして目を通して下さり、コメントまで本当にありがとうございます!!超感謝です!!
そして仰るとおりで、実はシータの短編に関してはストーリーに後々関わる描写がちらほら混ざってるんですが、今回のリアンの短編にそういうのは一切なし!!完全にリアンの理解を深めるためだけに書いた短編になります。
脚本術の本にあった課題としては恐らくこっちのリアンの短編の書き方の方が正しいです。どちらも俺としては発見のある短編でしたが、課題には人物描写を掘り下げる描き方をするようにとあったので!
リアンの睡眠時間の長さはすぐに説明が入りますが、仰るとおりただ眠いというだけではありません。そういう部分を加味した上で国も彼女に守護騎士を任せてるわけですしね!!
というわけで、明日の更新以降も頑張ります!!
リアンさん、異世界水没のカノアに
似た感じが良いですね。
>>ムネミツ様
おごごーー!!ムネミツさんこんばんは!!短編ご覧下さりありがとうございます!!超感謝です!!
そうそう!!そういう感じです!!
ただカノアは当初自分に自信がなかったり、強くなってもなかなかそれに伴う自覚がなかったりしましたが、リアンは最初から自信満々で他人からなにを言われても気にしない図太さがあります!!強い!!
まさに寝る子は育つ!!寝ることが好きだし、騎士としても確かな誇りを持っている、彼女の爽やかなキャラクター性が垣間見えました!二度寝の誘惑に逆らってしっかり起き上がる描写が特にいいですね!
>>椰子カナタ様
おごごーーー!!椰子さんこんばんは!!!シータに続いてリアンの短編もご覧下さりありがとうございました!!本当に感謝です!!!
そしてこれはシータの短編よりも更に自分用の色が濃いのですが、あえて手直しせずにほぼそのままで掲載しています。こういう短編を経て今回のリアンやシータは書いてると少しでも伝わればいいなと!
特に最初はリアンの責任感は全く想定に入れてなかったのですが、実際書いてみたらむくりと起き上がってちゃんと職務に向かったのでびっくりしました!!