大魔王はスカウトも得意
大魔王はスカウトも得意

大魔王はスカウトも得意

 

「では貴様は一人で勝手に転び、偶然にも頭が木っ端微塵になって死んでいたというのか!?」

「ほんど、驚かせですびまぜん……オイラ、ちょっと普通のゾンビと違ってて……」

 

 部屋での奇妙すぎる遭遇から少し後。

 エクスとテトラは、ロイヤルゾンビのクラウディオに今回の事情を聞くべく管理人室に戻っている。

 彼の話によれば、部屋の周囲が異臭まみれだったことも、室内で死んでいたことも、すべて自分のせいらしいのだが――。

 

「実はオイラ、他のみんなと違っで速くはしっだり、壁をよじのぼったり、力仕事も得意で……〝走れるゾンビ〟っでいうんずけど……」

「それは凄いではないか! ゾンビと言えば動きも遅く、さほど力も強くないのがお決まりであったであろう?」

「あ、ありがどです……でも……」

 

 今にもぐずぐずに崩れそうで崩れない体を椅子に乗せ、どこかしょんぼりとした様子で話すクラウディオ。

 彼の話すところによれば、クラウディオは数多くのゾンビの中に生まれた特異体質なのだという。

 ゾンビにあるまじき俊敏な動き。

 様々な武器や道具を扱うことが可能な手先の器用さ。

 それだけではなく、本来うめき声でコミュニケーションを取るゾンビの中にあって、彼は今のように一般的な声を発することすらできるのだ。

 まさにそれまでのゾンビとはあらゆる面で一線を画す、新時代を担うスーパーゾンビ。

 それがクラウディオになるはずだった。しかし――。

 

「だげど……オイラはそのがわり、すっごぐ臭くて。ゾンビの仲間も、パパも、ママも……オイラの臭いでノイローゼになっぢまっで……」

「なんと……」

「でも、それならどうして今日まで苦情がなかったんでしょう……たしかクラウディオさんは、ソルレオーネのオープンからご入居されてましたよね?」

「オイラ、いっづも臭いわげじゃねぇんでず。普通のゾンビより臭くないどぎもあったりじで。オイラにも、いつ臭くなるのかはぜんぜんわがらなぐで……」

「それはまた厄介だな……せっかく優れた能力を持っていても、それでは相当に苦労してきたことであろう……」

「さっぎみだいにいぎなり死んじゃうごともあるんで……オイラも家族も、みんな困っぢまっで……」

 

 うつむいたクラウディオの瞳に、悲しみの色が宿る。

 彼のその話に二人も思う所があるのか、深く共感した様子で耳を傾けていた。

 

「ごのマンションは作りも立派だじ、べんりなサービスもたっぶりあるっで聞いたんで……ごれ以上仲間に迷惑かげないように、一人で暮らしはじめたんずけど……オイラ、またみなざんに迷惑かけぢまっで……申し訳ねぇです……」

「そうだったんですね……」

「そうか……貴様の事情はよくわかった。話すのも辛い内容だったろうに、よく打ち明けてくれたな……クラウディオ」

 

 その話の内容は、決してクラウディオ自身が責任を問われるようなものではなかった。

 それにも関わらず、まるで罪人のような様子で肩を落とすクラウディオに、エクスは頷きながら笑みを向ける。

 

「そういうことならば、今後はこの俺が貴様の力になってやる! 都合の良いことに俺は完全無欠の大魔王! 貴様の臭いがどれほど強烈だろうと、外に漏れぬようにすることなど容易い!」

「大魔王さま……!」

「ほ、ほんどでずかっ?」

「うむ! 突然意識を失うという症状についても、俺が調べればなんらかの対策がみつかるかもしれん。そうほいほいと死んでいては、一人で買い物にも行けぬだろうしな! どちらも俺に任せておけ!」

「あう……うあ……っ。ア、ア……ありがどう、ございまず……っ。ありがど……ございまず……っ」

 

 これぞ、まさに脅威の大魔王パワー。

 ずっと悩み続けていた体質の解決策を示されたクラウディオは、そのうつろな瞳からぼろぼろと涙をこぼし、何度も何度も感謝を口にした。

 

「すごいです大魔王さまっ! 良かったですね、クラウディオさん!」

「うう……ほんどうに、ありがどでず。でもオイラ、ごんなにじでもらっだのに、なんもお返しでぎねぇで……! なにか、オイラにでぎることはありませんが?」

「ファーーーーッハッハッハ! 礼には及ばぬ。俺はこのマンションの管理人。入居者の悩みを解決するのは当然の――ん?」

「……? どうしました、大魔王さま?」

 

 だがその時。エクスにお返しがしたいと申し出たクラウディオの言葉に、エクスはなにやら思案げな様子で首をひねった。

 

「……クラウディオよ。実は今このマンションは危機的な人手不足でな。貴様さえよければ、俺たちと共にこのマンションの管理人をやってみる気はないか?」

「ええ!? クラウディオさんを管理人にっ!?」

「お、オイラが?」

「そうだ! ゾンビとは思えぬほどにテキパキと動け、手先も器用で力も強い。性格は良くコミュ力もある……実に素晴らしい人材ではないか! なあ、テトラよ!」

「は、はい! とっても良いお考えだと思いますっ!」

「オイラが、すばらじい……? くさすぎで、みんなに迷惑ばっがりかけてたオイラが……? う、あうあぁぁ……!」

 

 エクスのスカウトに戸惑うクラウディオ。

 しかし、その戸惑いはほんの一瞬。彼はすぐに顔を上げてエクスの目をまっすぐに見つめ返し、力強く頷いた。

 

「やりだいでず……やらぜでぐださい! ちゃんとじだ管理人じゃなぐでも……お手伝いでも……アルバイトでも……なんでもやりまずんで!」

「フッ……いい返事だ! ならば、早速俺からフィオに話しておこう! 吉報を待つが良い、クラウディオ・ゾンビよ!」

「でも、こんな大切なことをぼくたちだけで決めて大丈夫でしょうか? というか、デーモンさんが辞めた後のリーダーもまだ決まってなかったような……」

「案ずるなテトラよ! それもこれも、このマンションが深刻な人材難だと説明しなかったあの肉食系勇者がいかんのだ! せいぜい好きにやらせてもらうとしよう! クックック……! ファーーーーッハッハッハ!」

「わぁ……! 大魔王さま、とっても悪そうなお顔ですっ!」

「オイラ、いっぱいがんばりまず!」

 

 広々とした管理人室に響き渡る、大魔王の邪悪な高笑い。

 彼のその自信どおり。クラウディオの管理人配属は、無事その日のうちに認められたのだった――。

 

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