大活躍の大魔王
大活躍の大魔王

大活躍の大魔王

 

「えーんえーん! ママー!」

「見てください大魔王さま! あんなところに迷子の女の子がっ!」

「だ、だすげなぎゃ……!」

「ファーーーーッハッハッハ! 俺に任せておけ! 必殺――〝大魔王吸引シャドーバキューム〟!」

「きゃあああああああああ!? か、体が勝手にーーーー!?」

「あ、ママだ! ママー!」

「すごいです大魔王さまっ! あの子のところにお母さんが飛ばされてきました!」

「オイラの内臓もひっばられでますけんども……!」

「クックック……あの幼女と同質の魔力を持つ者を瞬時に引き寄せる超古代の吸引魔術だ! 血縁であれば、魔力の素養は必ず受け継がれるものだからな!」

 

 エクスがソルレオーネの管理人となってから数日が経過。

 前任のデーモンから管理人リーダーの役職を引き継いだエクスは、無限の大魔王パワーと持ち前の大魔王シンキングで、日々舞い込む凄まじい数のトラブルを次々と解決していた。

 彼がスカウトした悩めるゾンビ、クラウディオの経過も良好だ。

 彼を長年悩ませていた突発的な気絶や異臭は、エクス自ら制作した魔法のチョーカーにより完全に抑制されている。

 大魔王ともなれば、強力なマジックアイテム作りすらお手の物なのだ。

 

「それでは、今日はお二人と一緒にクラウディオさんのお部屋をピカピカにしましょう!」

「あうあー。ほんど、ずいまぜん……」

「頼んだぞテトラよ! 何を隠そうこのエクス。料理も裁縫も家庭菜園もプロ並みだが、掃除と機械の扱いだけは苦手なのだ!」

「はいっ。ぼくはお掃除だけが取り柄なので、頑張って綺麗にします!」

 

 そしてまた別の日。

 三人は管理人必須のスキル――掃除清掃のレクチャーを受けるためにクラウディオの部屋に集まっていた。

 

「しかしそうは言っても、ここまで汚い部屋を綺麗にすることなどできるのか? 散らかっていたゴミやほこりは我が魔術で綺麗さっぱり吹き飛ばしたが、床や壁にはまだ色々とヤバそうなシミや血痕などが思いっきり残っているのだ!」

「ぞれ、ぜんぶオイラが死んだどぎにグチャッてなったやづでず……」

「血やよだれみたいな体から出る汚れは、すぐに落とさないとなかなか落ちないんです。強い洗剤を使うと、床や壁紙を傷めてしまいますから……少しずつ、丁寧にやっていきましょうっ」

 

 普段は少々頼りないテトラも、こと掃除となれば話は別。

 エクスにも対処できない汚れすらピカピカにする彼の掃除手腕は、すでにエクスも認めるほどだった。

 

「ぜぇ……ぜぇ……! な、なんとしつこい汚れだ……色々と自主規制なあれやこれはテトラのおかげでなんとか落とせたが、その下にさらにシミがついているではないか!?」

「それは血と水道水が混ざって乾いた汚れですね……なら、このお酢を使えば……ごしごし……」

「おお……! テトラの言うとおり、酢で拭いただけでするっとシミが消えたぞ!? なぜだ……なぜ貴様はここまで掃除に詳しいのだ!?」

「テトラ先輩……ずごいでず」

「えへへ……ありがとうございますっ」

 

 絶対無敵の大魔王であるエクスに、掃除の申し子にして天使の可憐さを持つ少年テトラ。

 この二人だけでもソルレオーネの管理人戦力は相当なものだったが、今はそこに新世代ゾンビのクラウディオもいる。

 

「泥棒ー! 泥棒ですっ! 誰か捕まえて下さい!」

「ヒヒヒ! ここの警備はノロマのゴーレムしかいねぇからな! ケンタウロスのオレに追いつける奴なんていねぇ!」

 

 ソルレオーネ下層階のショッピングモール。

 大勢の人々で賑わう通路を飛び越え、上半身が人、下半身が馬という姿の若い男が奪った鞄を手に逃走を試みていた。しかし――。

 

「アァァァァァアアアアアァァァアアアアッッ!」

「なっ!?」

「泥棒、ダメ……ゼッタイ」

 

 だがしかし。風のようなスピードで走り去るケンタウロスに、突如として飛び出したクラウディオが一瞬で追いすがる。

 地獄の底から響くようなうめき声を上げ、全身からアレとかコレとかをまき散らして全力疾走するクラウディオの姿は、見る者全てを恐怖のどん底に叩き落とした。

 

「ぞ、ゾンビだって!? 嘘だろ……ゾンビがケンタウロスに追いつけるわけがねぇ!」

「ジテ……カエ……ジテ……! カエジデ……盗んだもの……ガエジデ……!」

「ヒエエエエエエ!? お、お助けえええええッッ!」

 

 新世代ゾンビであるクラウディオの速力は時速100キロを軽く越え、跳躍力は数十メートルに達する。

 握力にいたっては、分厚い鉄板を紙のように引き裂くほどだ。

 警備のゴーレム軍団すら上回る脅威の身体能力を武器に、クラウディオもまた、立派にタワマン管理人としての業務に勤しんでいた。

 

「ファーーーーッハッハッハ! 大魔王は管理人としても最強なのだ! マンションの平和と暮らしは、この管理人エクスが守る!」

「ぼくも頑張ります! 大魔王さまっ!」

「オ、オォォオオ……オイラもォ!」

「うむ! 頼んだぞ、二人とも!」

 

 十年間の無職生活を終え、管理人として働き始めたエクスの日々はまさに順風満帆。

 来月にはフィオの手配した補充人員もやってくることになっており、もはやエクスの未来にはなんの問題もないかに見えた。だが――。

 

「うぅ……困ったなぁ……」

「むむ、どうしたのだテトラよ? 一体なにを悩んでいる?」

 

 それからさらに数日後。

 ようやくエクスも管理人の業務に慣れてきたかという頃。

 管理人室で一人うんうんと頭を抱えるテトラを見かけたエクスは、なにごとかと声をかけた。

 

「それが……もうすぐソルレオーネの理事会があるんです。毎月一回、入居者の皆さんから選ばれた役員の方と、マンションの運営方針について話し合いをしてて……」

「それの何が問題なのだ?」

「実は……以前のリーダーだったデーモンさんが管理人を辞めたのは、この理事会のせいなんです。その……役員のみなさんが、色々と大変で……」

「ほっほーう? どれどれ、これがその役員名簿とやらか……むむ?」

 

 テトラの肩越し、モニターをのぞき込んだエクスの顔つきが変わる。

 その鋭い眼差しの先――そこにはエクスにとって忘れようもない、ある旧友の名前が表示されていたのだった――。

 

 マンション管理業務日誌#02

 ソルレオーネ定例理事会――業務開始。

 

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