拙者、星と会う侍!
拙者、星と会う侍!

拙者、星と会う侍!

 

「それで、流派同盟というのはどのような組織なのでござるか?」

「元々僕達クラスマスターは、流派ごとに方針も活動もばらばらだったので……それを魔物と戦うために纏めているのが流派同盟なんです」

 

 勇者学校での一件から一夜明け。

 普段よりもゆっくりとした時間に宿を出た二人は、今日も大勢の人で賑わうベリンの街並みを歩いていた。

 

「なるほど……そう言われると、確かに拙者の生まれ育った日の本では、別々の剣の使い手同士は険悪な感じでござったな……」

「ずっと昔はこの辺りでもそうだったみたいです。でも、それじゃあ結局魔物に対抗できませんから」

「至極ごもっとも! 一人では太刀打ちできずとも、力を合わせればなんとかなるものでござる!」

「前にも一度お話ししましたけど、この辺りには流派同盟に加えて聖教騎士団までいますからね。ドラゴンの皆さんは世界中を守ってくれますけど、僕達はそうもいきませんし……」

 

 ユーニの説明に、カギリは腕を組んでなにやら満足げに頷く。

 本来、二人は昨日のうちに流派同盟の本部へと赴き、カギリの登録を済ませるはずだった。

 しかしユーニが帰還報告をするはずの盟主が多忙だったため、先にベルガディスのいる学び舎に挨拶に行ったのだ。

 

「今日こそは盟主殿と会えると良いのだが……やはり組織の長ともなると多忙なものでござるな」

「もし今日もお留守なら挨拶はまた今度にして、カギリさんの登録だけでも済ませちゃいましょうっ!」

「なにから何まで……本当にかたじけない。拙者、ユーニ殿から受けた数々の恩には必ずや報いる所存!」

「気にしないで下さい。僕の方こそ、カギリさんにはいつもお世話になってますから!」

 

 流派同盟に登録すれば、連邦以外の地域での魔物の活動も迅速に共有される。

 それはカギリの旅の理由である、〝この世で最も強い悪党を倒す〟という目的達成にも有益だとユーニは考えていた。

 

「では、それが済んだら次はどこに行くでござるか?」

「ベリンからずっと南にある、サハラの砂漠地帯に行ってみようと思ってます。北は聖教騎士団が守ってくれていますし、僕達は普段手薄な地域に向かった方がいいかなと」

「なるほど。実に良い考えでござる!」

「あっ! でもその前に、この前ベリンに新しく出来たっていう〝美味しいケーキのお店〟に行ってもいいですか……?」

「ほむほむ? ユーニ殿は〝けーき〟が好きなのでござるか?」

「実は僕、色々な土地の美味しいお料理を食べるのが遠征中の楽しみで……そのお店も旅の途中で評判を聞いて、ベリンに戻ったら食べたいなって思ってて……」

「はっはっは! 何を隠そうけーきは拙者も大好物……考えただけで小腹が空いてきたでござる!」

「は、はいっ! じゃあ、一緒に――」

 

 だがその時だった。

 笑みを浮かべて言葉を交わすユーニとカギリの視界。

 その両方が、同時に全ての色を失った。

 

「え……っ!?」

「何が起こったでござるか!?」

「これは……時空魔法!? それも、もの凄く強力な……」

 

 そう、世界が失ったのは色だけではなかった。

 道を行き交う人々も、空を飛ぶ鳥も。

 風になびく草木も、荷車を引く馬も何もかも。

 カギリとユーニ以外のあらゆるもの全てが、灰色の世界の中で動きを止めていた。そして――

 

『――見つけた』

「っ!? 誰です!?」

 

 あまりにも突然の出来事に驚く二人に、鈴の音に似た小さな声が届く。

 声のする方を向いたカギリとユーニの視線の先。

 そこには手に持った小さな白い傘を差して立つ、長い銀色の髪と星の輝きを宿す瞳を持つ、黒いドレス姿の少女がいた。

 

『見つけた……ギリギリ侍』

「この子、カギリさんのことを……?」

「どちら様でござるか!?」

 

 その少女は、ただその場に立っているだけだ。

 ただ灰色で塗り込められた、静止した世界に立っているだけ。

 ただそれだけだというのに。

 運命の勇者であるユーニも。

 カギリすらも。

 全身から冷たい汗が滲むのを止めることが出来なかった。

 

『リーフィア。私は虚ろな星のリーフィア』

「リーフィア殿……? 拙者はカギリと申す!」

「待って下さいカギリさんっ! この子の気配……間違いなく魔物です! それに虚ろな星……星って、もしかして……っ!」

『もしかして:星冠の魔物』

『そうかもしれないし』

『そうじゃないかもしれない』

『だって私は、私のことを何も知らない』

『検索してもわからない』

「声が一度に聞こえるでござる!?」

「この子……! やっぱり……!」

 

 幾重にも重なった少女の声が耳元に響く。

 しかし目の前の少女は一人のまま。

 動いてすらいない。

 そして、本来ならまともに聞き取れないはずのその重なった言葉も、今の二人にはなぜかはっきりと理解することが出来た。

 

『初めまして、ギリギリ侍』

『そしてユーニ・アクアージ』

『私の名前はリーフィア』

『虚ろな星のリーフィア』

『もしかしたら』

『ひょっとすると』

『誰かが私を星冠の魔物と呼んでいるかも』

『いないかも』

『私は、ギリギリ侍にお願いがあって来た』

 

 虚ろな星のリーフィア。

 そう名乗った少女――リーフィアは、一切の感情が窺えない完璧な無表情のまま、なぜか二人に向かってグッと親指を突き立てたのであった――。

 

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