英雄の資格
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英雄の資格

 

「それでな、こいつが元々パライソ連邦と敵対していたドラクル帝国の皇帝、グェンオッズだ!」

「うわ怖い」

「そしてそして! こっちが我が魔族の古株で、反人類の急先鋒だったヘドロメールだ!」

「うわ怖い」

「クックック……! そうだろうそうだろう!? この二人は今回の式典に合わせて密かに裏で手を組み、大魔王である私と、人間共の頂点である聖女の二人に対して恐るべき軍事クーデターを企んでいたのだ!」

「うわ怖い」

 

 いきなり出てきた四天王さんにずらっと囲まれた俺は、それでもちゃんとリズの説明を聞いていた。

 なんでもリズの話では、俺達人間の中の偉い人と、魔族の偉い人が手を組んでなんかしようとしてるらしい……多分。

 

「理由は色々あるだろうが……大本の部分は互いの陣営への怨恨と権力争いだな。人と魔族は千年にも渡って争っていた。モンスターの台頭時なんかにちょっと仲良くなったりしたこともあったが、基本的にはずっと敵同士……世界が滅びかかっていようと、喉元過ぎればなんとやらなのだ!」

「ヘドロメール博士はリズ様の先代……つまり、リズ様のお父上が大魔王であらせられた頃から四天王の筆頭を務めてきた方でした。元から過激な言動の方でしたが、大魔王がリズ様になってからは、以前にも増してご自身の派閥構築に勤しんでいて……」

「わ、私も……! 以前にパライソの方から聞きました……っ! ドラクル帝国は、パライソや他の国々とも険悪な関係で、今回の大洪水の後もしぶしぶ連絡を取ってきたって……」

「ケケッ! つまりどっちの陣営でもメインから外れた奴らってことだ! 俺様も個人的にはヘドロのジジイには世話になったが、リズ様の決断に逆らうってのは、完璧にライン越えちまってんなァ!?」

「大変そう」

 

 俺はリズやラキ、それと……オディウムさんとナインさん……だっけ。
 とにかく皆の説明を受けながら頑張って頭を動かしていた。

 

「今回、こいつらは式典に集まった両陣営の首脳達を武力を持って一斉に捕らえ、いいように利用しようとしているらしい。魔王城の宝物庫に収められていた〝究極の破壊兵器〟も、ヘドロメールがどこぞに隠し持っているはずだ!」

「大丈夫なのかな。そんな怖そうな武器まで盗られちゃって……」

「その件については心配いらネェ! その武器は元々俺達が持ってたモンなんだぜ? そんなもん、とっくのとうにリズ様が全部解析済み……つまり、ソイツを防ぐ方法も、対抗策もどっちも楽勝で用意できたってワケヨ!」

「すごい」

「オディウムさんの言う通りです。大魔王であるリズ様と、パライソの聖女であるリリーアルカ様の指揮の下、すでに水面下で両者への包囲網は完成しています。なのでカノアさん、貴方には今回の船上での騒ぎの際に、万が一船が航行不能になった場合の救助や救援をお願いしたいのです」

「それなら出来そう」

「だろう? なんといってもカノアはあの一瞬で全人類を救出するほどの泳ぎを持つ男だ。会場となる豪華客船ハウラニの乗員は千人程度だから、余裕で全員の安全をばっちり確保できるはずだっ!」

 

 うんうん……。
 リズや他の皆に言われてるうちに、それなら俺でもできそうって気になってきたぞ。

 だけど、俺がそんな風に思っていたら……。

 

「お待ち下さいリズ様! このタナカ……カノア殿と共に轡《くつわ》を並べるに当たり、一つ確認しておきたいことがあるっ!」

「……?」

「むむ!? 確認とはなんだタナカ!? カノアはちょっと反応が鈍いところもあるが、やるときは誰よりもやる男なのだぞ!?」

「リズ様からカノア殿の話を聞くようになってから今日まで、俺はずっと気になっていた! カノア殿は元々、我ら魔族と戦う〝冒険者を志していた〟とのこと! そのカノア殿が、どうして今はこのように我ら魔族に全面的に力を貸してくれるのか……俺はその理由が知りたい!」

「あー……。り、理由か……? カノアに理由を問うのか……? うむむむ……!」

「その通り! 決してカノア殿を疑っているわけではないっ! ただ……リズ様から聞くカノア殿の姿は、まるで〝聖人君子〟かと思うほど俺達魔族への偏見がなかった! なぜだ!? 教えてくれカノア殿!」

 

 その時、大きな声でそう言ったタナカさんを見て、リズはなんか〝凄く微妙な顔〟になった。なんでだ……。

 っていうか、ラキといいこのタナカさんといい……リズは俺のことを皆になんて話してるんだ……?

 それにそう言われても、冒険者を目指してたのも特に理由とかないし……。
 強いて言うなら、冒険者なら昼まで寝てても怒られないって聞いたからで……。

 

 リズと一緒にいるのは……。
 リズと一緒にいるのは……なんなんだろうな。

 それについてはすぐに色々思いつくのに、上手く言葉にできない。

 あと、田舎育ちの俺からすれば、会ったこともない魔族なんかよりそこらのモンスターや蛇の方がずっと怖かった。怒ったヤギとか猫とか犬とかも怖い……。

 

 う、うーん……。
 うーーーーーーーーーーん。

 
 だ、だめだ……。
 何も思い浮かばない。

 こうなったら、もう正直に言おう……。

 

「……知らなかったから」

「知らなかった……? それは、俺達魔族のことをか?」

「うん。それで、初めて会った魔族のリズは凄く優しかったから……」

「か、カノア……っ!? お前……!」

「なるほどな……! それで、他の理由は?」

「ない」

「ない?」

「うん」

「…………」

 

 あ……やっぱりダメだったかな……。
 なんかタナカさんも黙っちゃったし。

 こ、これはあれだ……。
 またバイトの面接でダメだった時と同じ空気……。

 
「ふ……フハハハハハハハハ! ハーーーーッハッハッハッ! 見事なりカノア殿! 百点満点の答えだ! 貴殿ならば、もし勇者として俺の前に立ちはだかったとしても喜んで討たれていたであろうな! ハハハハハハっ!」

「なにがどうなって?」

 

 俺の答えを聞いたタナカさんは、いきなり大笑いしてそう言った。

 

「申し訳ありませんでしたリズ様! このタナカ、心からカノア殿とリズ様にお詫びする! リズ様の目に狂いはなかった……カノア殿は間違いなく、我ら魔族と全人類を救った英雄だ! 俺は感動したっ!」

「お、おおおおお!? そうだろう!? 本当にそうなのだっ! カノアはとっても凄い奴で、立派な英雄なのだ! さすがタナカ! 分かってくれて私も嬉しいぞ! なあ、カノアよ!? ナーッハッハッハ!」

「マジか」

 

 よく分からないけど、なんか正直に答えたのが良かったっぽい。
 首を傾げる俺とは違って、リズは大喜びで俺の手を取ってぴょんぴょん跳ねてた。

 どうしてリズがこんなに喜んでくれるのかは、よく分からなかったけど。
 それでも、リズが嬉しそうならそれでいいのかなって思った――。

 

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