男と四天王
男と四天王

男と四天王

 

「さあ入ってくるが良い! 最悪にして災厄の使徒っ! 魔族四天王よ――!」

「魔族四天王?」

 

 両手をがばって広げた大魔王ポーズのリズにぽかーんとしながら、俺は首を捻って辺りを見た。そしたら、さっきまで俺の隣にいたはずのラキもいなくなってて――。

 

「うおおおおおッ! 〝豪腕〟のタナカ、ただ今参上! リズ様アアアアアッ!」

「……〝怨恨〟のオディウム……」

「キャハハハッ! 〝享楽〟のナインだよ~! アタシ、楽しいことだーい好き!」

「そして僕……〝塵殺〟のラキ。やれやれ……皆さんもう少し静かに登場できないんですか? これでは、四天王の品位が疑われても仕方ありませんね……」

「うわ、なんか出た」

 

 そうしたら、熱そうな炎とか真っ黒な怖いドロドロしたのとか、ピンクのひらひらとか氷漬けの海とかの景色が部屋の中に映って、それと一緒に変な人達が入ってきた。なんかラキもちゃっかり混ざってるし。

 

「クックック……! どうだカノアよ……? この者達こそ我が忠実なるしもべにして最も信頼する側近中の側近……! 魔族四天王なのだっ!」

「ウオオオオオ!」
「…………」
「キャハハ!」
「興味ありませんね……」

 

 な、なんだこれ……。

 っていうか、ラキなんてこれ絶対それっぽく頑張ってるだけだし……。
 全然普段とキャラ違うし……。

 最初に出てきた燃えてる人は俺と同じくらいの背の高さの男の人で、凄いバキバキに鍛えてる。真っ赤な髪の毛を後ろで括ってて、大きな剣を背中に担いでた。

 次に出てきた小さな人は黒いローブで全身が隠れてる。顔の所からは紫色のぼんやりした光だけが見えてて、どういう顔なのかはさっぱり分からない。

 三人目の子はリズと同じくらいに見える女の子だけど、日焼けした肌に銀色の髪。着てるのは水着みたいな服で、背中にはコウモリの羽みたいなのがついてる。お尻にはなんか尻尾みたいなのも見えるし。とにかく色々派手だった。

 でも――。

 

「おお! 君がリズ様の仰っていたカノア・アオだな!? 俺はタナカ・スズキ! 真っ先に勇者達と戦って敗れ去る、四天王最弱のポジションを務めている! よろしく頼む!」

「四天王最弱」

「…………あ、もしかしてもう喋ってもいいのか? 黙って突っ立ってるのは俺様の性に合わねぇんだよナァ!? よう、ガタイのいい兄ちゃん! 俺様はオディウム・ガラクート! 勇者パーティーに卑劣な罠を仕掛けて追い詰めた挙げ句、ついうっかり新たな力に覚醒させちまうタイプの四天王だぜェ!」

「うっかりさん」

「あ……あのっ。初めまして……! 私……ナイン・ノールです……。その……こんな変な格好なんですけど……本当は、私もとっても恥ずかしくて……。で、でも私……勇者パーティーの皆さんと何度か戦っている内に見逃されて心が揺らぎ、最後には優しい心に目覚めて人と魔族の架け橋になるという……本当に大切なお役目をリズ様から仰せつかっていて……っ!」

「優しい心に目覚める」

「そして僕は序盤から終盤まで何度も勇者達と戦い、最終的には裏で糸を引いていた真の黒幕との戦いで、満を持して勇者達と共闘するライバルになる予定でした。まあ……僕も他の三人も、そんなことをする前に和平が成立してしまったので、そういう〝設定〟だけが残ってるんですけどね」

「最後に助けに来るライバル」

「フッフッフ……〝見事な布陣〟であろう? 我が魔族は常日頃からこのように人間共との戦いに備え、修練と工夫を積み重ねていたのだ……!」

「そ、そうなんだ……。うん……。カノア・アオです……よろしく……」

 

 なんか……色々尋ねるのも悪いかなって思って、俺はとりあえず頷いた。

 

「しかしリズ様! 今回の計画は正に薄氷を踏むような危険な物になるでしょう! いかにリズ様が深く信頼する者とは言え、魔族でもないカノア殿をこのような危険な計画に巻き込んでも良いのでしょうか!? 俺はとても心苦しい!」

「うわ、いい人だ」

「そうだぜリズ様ァ! もししくじってこの兄ちゃんが怪我でもしちまったら、どんなに謝っても謝りきれるもんじゃねぇ! 危ねぇことは俺達四天王に任せて、兄ちゃんはのんびりパーティーを楽しんでりゃいいんだゼェ!?」

「うわ、いい人だ」

「あ、あの……っ! カノア様は本当にそれで良かったんですか……? もし少しでも迷いがあるのでしたら、遠慮せずに仰って下さっても……。その……わ、私も怖いですし……っ!」

「いい人しかいない」

 

 三人はみんな俺のことを真っ先に気にかけてくれて、一番偉い人のはずのリズに全然遠慮しないでそんなことを言い始めた。

 

「待って下さい皆さん。カノアさんはすでにご自身の意思でこの場に来て下さっているんです。肝心の計画の内容は忘れてしまったみたいなんですけど……」

「良いのだラキよ、それにお前達の言うことも至極もっとも! そしてだからこそ、今もこうしてカノアに計画の全貌を説明しているというわけなのだ! カノアよ、ここからは先の話の続きなのだが……」

「あ、うん」

「うむ、先ほど私は犯人を既に見つけたと言っただろう? しかしその上で泳がせると」

「言ってた」

 

 リズに詰め寄ったタナカさん達をラキが抑えると、リズはまた俺に顔をずずいっと寄せて、真剣な顔でさっきの話の続きを始めた。

 

「……私とて、本来ならばそのような輩問答無用で引っ捕らえたいところだ。だが今回の件はあまりにも犯人の地位が高く、影響範囲が大きすぎた……」

「……?」

「我が魔王城の宝物庫を暴き、さらには人と魔の友好を望まぬ者共……それは、我ら魔族の中にも、人間共の中にもおったのだ! 良いかカノアよ……今回の計画には、ぶっちゃけ人類と魔族がこの水没した世界で生きていけるかどうかの存亡がかかっている! だからもう忘れたりするなよっ! クックックック……ッ!」

「なんてこった」

 

 そう言って、リズはギランギランに光る赤い目を俺に向けた。

 その目に見つめられた俺はまるで蛇に睨まれたカエルみたいになって、凄い迫力のリズの視線から目を逸らすこともできなかった――。

 

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