一緒に行きませんか?
一緒に行きませんか?

一緒に行きませんか?

 

 チュンチュン……。

 チュンチュン……。

 

 む……? 

 朝、か……?

 

〝すっぽんぽんで凄まじく良い匂いのするすべすべのユレルミ〟と同衾しつつも、なんとか理性と意識を保ちきった私に、柔らかな日の光と小鳥のさえずりが届く。

 そして……まさかこれは、私が子供の頃に読んだ〝絵本〟に書いてあった、男女が同じ場所で寝ることで発生するという時空跳躍現象、〝朝チュン〟では……?

 

 フ……フフ……ッ!

 この世に生まれ落ちて十八年。

 ついにこの私も〝大人の階段〟とやらを登ってしまったようだな……ッッ!?

 

「んん……むにゃむにゃ…………あ……」

「おはようだなユレルミ。体調はどうだ……?」

「エステルさん……はい、なんだかとっても楽になってます」

「そうか! それは良かった……!」

 

 私の腕の中で目を覚ましたユレルミ。

 私もずっとこうしていたのでわかっていたが、たしかに彼の体温はもうすっかり元通りになっていた。

 

「ありがとうございます……こんな、貧乏神の僕なんかのために……っ」

「気にするな……。貧乏神というだけで君が辛い目に遭うなんて、私には耐えられん。そ、それに……その……。もう私と君は、〝赤ちゃん〟も作った仲だし……うへへへ……」

「えっ? 赤ちゃんですか……? それって……あ、エステルさん!?」

「ふひ……赤ちゃん……! 私と、ユレルミの……絶対かわいいやつ……っ。ガクッ……」

「えええええ!? え、エステルさああああああんっ!?」

 

 だが、どうやら私もそこまでだった。

 一晩中貧乏神の力と自身の邪悪な欲望に抗い続けた私の心と体は、とっくに限界を超えていたのだ。

 

 でもいいんだ……。

 なぜなら私はやり遂げた。

 

 大人の階段も登ったし、ユレルミのいい匂いもたっぷりくんかくんかした。

 大陸最強の騎士として、誰に恥じることのない誉れある最後だ……!

 

 ありがとうユレルミ……。

 我が生涯に……一片の悔いなし……――。

 

 

 ――――――

 ――――

 ――

 

 

「さあ! そろそろ行くとするか!」

「はいっ。エステルさん」

 

 さらに翌日。

 

 ユレルミが倒れたのと入れ違いに、今度は〝私がぶっ倒れてしまった〟ことで出発はもう一日伸びた。

 貧乏神のユレルミに私の看病をさせるわけにも行かないので、私自身が回復するのにもいつもより時間がかかったし、なかなかに大変な目に遭ってしまった。

 

 おかげでユレルミを看病していたときの私の記憶が曖昧なのだが、それも致し方ないこと。

 隣国の軍勢を一人で滅ぼしたときですらピンピンしていた私が倒れるとは……まさに貧乏神の力恐るべしといったところか!

 

 そして――。

 

「僕……もっと考えます。貧乏神の力に流されるだけじゃなくて……僕がどうしたらいいのかを」

「ユレルミ……」

「今までは、貧乏神になった僕に優しくしてくれる人はいませんでした……いえ、いないと思っていたんです。だから、僕なんてどうなってもいいって、そう思ってました……」

 

 そう話すユレルミのまっすぐな瞳。

 どこか雰囲気の変わった彼のその眼差しに、私の鼓動がどきりと跳ね上がる。

 

「ごめんなさい、エステルさん。そして……ありがとうございました。すぐには難しいかもしれないけど……僕も僕なりに出来ることや、みなさんに迷惑をかけない力の使い方を頑張ってみますっ」

「ああ……! その意気だ! もちろん私も協力するぞ!」

「はいっ! それと――」

 

 言いながら、ユレルミは私の横をささっと通り抜け、目の前に広がる森に向かって大きな声で呼びかけた。

 

「ジローさんっ! 今まで僕のことをずっと守ってくれて……助けてくれてありがとうございましたっ! この前は変な人なんて言って、ごめんなさいっ」

 

 姿の見えないジローに向かい、ユレルミは深々と頭を下げてそう言った。

 そうするとちょうど彼のぷりりんとしたお尻が私のほうに突き出される形になったため、私は必死でそのお尻に飛びつきたい欲求を耐えて見せた。だが――。

 

『う、うお……うおおおおおおおおおッ!?』

「っ!?」

「ユレルミたんユレルミたんユレルミたんペロペロペロペロオオオオオオオ!」

「ひゃああ!?」

「へ、変態だーーーー!?」

 

 ユレルミのお尻に釣られたのは私だけではなかった。

 全く予想していなかった森の上から、超高速で長い舌を振り乱す血走った目の半裸の変態男――ジローが飛び出してきたのだ!

 

「成敗――ッ!」

「ぐぎゃああああっ! し、しまった……ユレルミたんのお尻に目が行って変態女の攻撃に気づけなかったぜ……!」

「なんなんだ貴様は!? せっかくユレルミの天使っぷりが遺憾なく発揮された感動シーンが台無しではないか!? 恥を知れ恥をッ!」

「うるせぇ! テメェに言われる筋合いねぇんだよ変態女ッ!」

 

 どこからともなく飛び出してきた真性の変態を間一髪で蹴り飛ばす。

 まったく……少しはまともかと思ったが、やはりこの変態は危険過ぎるぞ!?

 

「あ、あのっ!」

 

 だが、再び一触即発となった私とジローに、鈴の音のようなユレルミの声が届く。

 

「もしよかったら……ジローさんも一緒に行きませんか? エステルさんよりももう少し離れてくれれば僕の力も平気だと思いますし……隠れたりしないで、僕と友だちに……」

「ゆ、ユレルミたん……っ!?」

「友だちだと!? この変態男と……!?」

「はい……っ。僕、ずっと誰ともお話ししてなかったので……もちろん、ジローさんが良ければなんですけど……」

「あ、ああ……あああああああああ! もちろん……もちろんだよユレルミたんッ! 俺なんかで良けりゃ……! いくらでも友だちになってやる……! うう……っ! うううおおおおおおおおっ!」

 

 そのユレルミの提案に、ジローは両方の目から滝のような涙を流してうずくまり、何度も何度も頷いた。

 

 だがこいつ……。

 ただの変態かと思ったが、ユレルミの友だちになれたのがそんなに嬉しかったのか……?

 

「あの……いいですよね、エステルさん。ジローさんも一緒で……」

「ん……そうだな。こいつは間違いなく変態だが、助けられたのも事実。君がそう言うのなら、異論はない」

「ありがとうございます、エステルさんっ」

「うおおおおおおおお! ユレルミたんマジ天使いいいいいいい!」

 

 こうして、私たちは新たに変態を加え、三人パーティーとなった。

 ドラゴンの住処への道のりは遠い。

 なにが起こるかわからないこの旅路では、ジローの知識はきっと役に立ってくれるだろう。変態だけど。

 

 少しだけ賑やかになった私たちのパーティー。

 ドラゴン討伐を目指す旅は、まだまだ続く――。

 

 

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