変態さんです!
変態さんです!

変態さんです!

 

「ふぅ……初日にしてはそれなりに歩いたな。少し休むとしよう」

「はい、エステルさん」

 

 うっそうと生い茂る森の奥深く。

 私とユレルミは、ぎりぎり人が歩けるかどうかという道なき道を進んでいた。 

 

「随分と歩いてしまったが、大丈夫だったか? 疲れてないか?」

「平気です。森や山を歩くのは慣れてますから……」

「それは頼もしい――って、あぶなああああああああああいッ!」

「え……!?」

 

 瞬間、私の体は電光石火の速度で動いていた。

 全てはユレルミに襲いかかる危機を打ち砕くため。

 そう――ユレルミの股間の葉っぱが〝今にも外れようと〟していたのだッッ!

 

「てええええええええいッ!」

「あう……っ?」

「ふぅ、危ないところだった……大丈夫か、ユレルミ!?」

「あ、ありがとうございます……エステルさん……」

 

 刹那の交錯。

 私は一瞬にして外れかけた股間の葉っぱを元の位置にセットする。

 それは正に、極限の速度と精密性が求められる命がけの作業……!

 

 私以外の者であれば、僅かなミスでユレルミの〝大事な部分〟に触れてしまったり、元の位置に戻せずに彼を本当のすっぽんぽんにしてしまうこともあるかもしれない……あまりにも危険すぎるっ!

 実は何かの間違いが私にも起きないかな~……とか、その他もろもろの邪悪なことを期待したりはしていないッッ! していないと言ったらしていないのだッッ!

 

「それなら良かった……もし外れてなくなってしまったらすぐに教えてくれ。換えの葉っぱはこの通り、〝何枚も〟用意しておいたっ!」

「本当に何から何まで……僕、なんてお礼を言ったらいいのか……」

「気にするな! 君が持てないなら私が持てばいい。簡単なことだ!」

「エステルさん……」

 

 申し訳なさそうに肩をすくめるユレルミを元気づけようと、私はことさら明るい調子でそう言った。

 

「そういえば、君は私と会ったあの町の周りに住んでいたのか?」

「いえ……たまたまあそこにはいつもより長くいただけで……。その……あの町の人たちは、やってきた旅の方に酷い事をしていたので……」 

「たしかにな! 私も危うく〝破廉恥はれんちなこと〟をされるところだった……! 実にけしからん奴らだ!」

「何度言ってもやめてくれないので……だから、たまにこっそり様子を見に来ていたんです」

 

 そういうことだったのか。

 そういえば、ユレルミは元々冒険者を志していたのだった。

 騎士とは違うが、冒険者も世の人々のためになる大変な職業だ。

 ユレルミにも、人々のためになろうという気持ちがあるに違いない。

 

 視線の先でちょこんと膝を抱え、私が投げ渡した水袋の口に艶やかな桃色の唇をつけるユレルミ。彼のすらりとした白い足と、その付け根にあるぷりんとした丸いお尻……そして股間の葉っぱに私の目は釘付けになって……。

 

 くっ、まただ……!

 ただ彼を見つめているだけなのに、なぜか私の胸が高鳴り、視界がピンク色に染まって……!

 

『離れろぉぉぉぉぉ……』

 

「え……? エステルさん、今なにか言いました?」

「はうっ!? な、なんだ!? 私は君を見るのでいそがしいのだが……」

「〝俺のユレルミたん〟から離れろっていってんだよォォ! このクソ女がッ!」

「なっ!?」

 

 だがその時だった。

 私とユレルミが腰を下ろした木の上から、〝半裸の変態男〟が降ってきたのだ!

 

「え、エステルさんっ! お空から変な人が……!」

「任せろ――!」

「ヒャッハアアアアッッ!」

 

 一瞬にして抜き放たれた私の双剣が変態を斬り裂く。

 だが……馬鹿な、この変態……!?

 

「やるじゃねぇか……! 大陸最強の騎士、双剣使いのエステル……!」 

「私をそうだと知って挑んでくるとは……そしてその身のこなし、どうやらただの変態ではないらしいなッ!?」

「ヒヒヒ! 俺の名はジロー! ジロー・ペロペロ! 地上に舞い降りた天使……ユレルミたんを影から見守り、あわよくばペロペロしたい愛の戦士なんだよぉぉぉぉッ!」

「なにがペロペロだ貴様ッ!? 馬鹿にしているのか!?」

「あわわ……っ!」

 

 たしかに倒すつもりで放った私の一撃を、この変態は紙一重で躱していた。

 その上一瞬にして私とユレルミから距離を取ると、余裕の笑みすら浮かべたのだ。

 よくわからないタトゥーだらけの上半身に、粗末な腰巻きと革のブーツ。

 血走った目に異様に長い蛇の様な舌。

 そしてわけのわからない物言い。

 突然現れたその男は、どこからどう見ても変態だった。そして――!

 

「テメェ……! よくも俺のかわいい〝ユレルミたん〟に近づきやがったなぁぁ……!?」

「え……っ?」

「やっぱり変態じゃないかッ!? ユレルミは私の後ろに! このような変態は、正義の騎士であるこの私が成敗する!」

「なにが正義だ!? テメェこそ、さっきまで舐め回すようにユレルミたんの体を見てたくせによぉ!?」

「な……っ!? き、貴様……なぜそれを!?」

「どうやってユレルミたんに近づいたのかは知らねぇが……! テメェのような〝体目当て〟の女にユレルミたんを汚させるわけにはいかねぇんだよォォッッ!」

「誰が体目当てだ誰が!? わ、私は決してそんな断じて……ッッ!」

「うるせぇ! ユレルミたんに近づく奴は、男も女も全員ぶっ殺してやんよォッ!」

 

 その言葉と同時、ジローと名乗った変態男は手に持った短刀で斬りかかってくる。

 

 だがこの身のこなし、そして速度。

 やはりこの男……ただの変態ではないな!?

 

 私は気合いを入れ直すと、今度こそこの変態の息の根を止めようと身構えた。

 だがしかし、そんな私の背後から、突然何かが倒れるような音が響いたのだ。

 

「っ!? ユレルミ!?」

「ユレルミたん!?」

「うぅ……エステル、さん……」

 

 今にも刃を交えようとした私と変態。双方の視線がその一点に注がれる。

 そこには荒い息をつき、苦しげに横たわるユレルミの姿があったのだった――。

 

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