円卓
円卓

円卓

 

 音がする。

 ザリザリ。

 ザリザリと。

 

 永遠に続く耳障りなノイズ。

 四方に立つのは天を突く黄金の塔。

 その塔の指し示す先に輝くのは、〝二つに割れた赤い月〟。

 東には灼熱の太陽が昇り、西には一切の光も見えない闇が広がる。

 北には凍てつく氷の山脈が連なり、南には全てを溶かす溶岩の海が溢れていた。

 

「――――日本に向かった同志たちが、拳の王ロード・フィストと接触した」

「へぇ……? 意外だね。彼のことだから、少しは様子を見ると思っていたんだけど」

 

 その声は中央。

 どこまでも広がる世界の中心に立つ、四つの塔の基部。

 そこにあるのは一つの円卓。

 席は九つ。

 座る影は六つ。

 輝く陽光も、全てを飲み込む闇も、吹きすさぶ吹雪も、灼熱のマグマも、森羅万象の一切はその円卓に干渉すること無く消えていく。

 

「フフ……きっと彼には自信があるのでしょう。だって……彼はすでに〝王の一人を殺している〟じゃないですか。今頃、拳の王はこう思っているはずです。『円卓、恐るるに足らず』……とね」

「奴を〝王〟と呼ぶのは止めろ……! 奴はただの裏切り者。円卓に仇なす反逆者だ。それ以上でも、それ以下でもない……!」

「でも……あの人は、まだ生きてるよ……殺し屋として……拳の王として……なら、それが〝主の意思〟……」

 

 席に座る六つの人影が思い思いに言葉を発する。

 その度に周囲の景色にザラついたノイズが走り、音が割れる。

 

「どうあれもうすぐさ。〝神の近似値アヴァター〟が円卓に戻れば、すぐに母さんを連れ戻せる。あの月に〝閉じ込められたまま〟になっている……可哀想な母さんを」

「なんとお労しい……〝六業会ろくごうかい〟め……よくも、我らが主をあのような地に……ッ」

「ですが、それは六業会にとっても同じ事。今は一刻も早く、奴らに先んじて主様を解放しなくてはなりません……」

「ならば、なぜ〝我ら全員で〟拳の王を仕留めにいかん!? もはや、なりふり構っている場合ではあるまい……ッ!?」

 

 淡々と交される言葉の中。突如として雷鳴のような怒りが渦巻き、周囲の光景を一度は散り散りに打ち砕く。

 しかし打ち砕かれた景色は激しいノイズを帯びながらも、やがて何事も無かったかのように元通りの姿を取り戻した。

 

「それ……もう何度も説明した……六業会も仕掛けてきてる……ぼくたちが迂闊に動けば……〝負ける〟よ……」

「しかし……ッ!」

「いいから落ち着けよ……決まったことを今更蒸し返すんじゃねぇ……。今回の件は〝鋼の王ロード・スティール〟に任せる。満場一致でそう決まっただろうが」

 

 最後に発された、冷静ながらも荒れ狂う暴威を感じさせる声。

 その言葉に他の全ての声は静まり、秩序を取り戻す。

 

「ん……文句はねぇな? なら、俺は先に消えるぜ。まだ六業会の奴らを皆殺しにしてねぇんだ」

「ホホ……相変わらず働き者なこと。では、私もこれで失礼しますよ。我ら全員、鋼の王からの吉報を待ちましょう……」

「そうする……じゃあね、みんな……」

 

 一つ、また一つと。

 円卓を囲む影が消える。

 四方を囲んでいた自然の猛威が霞のように消え去り、辺りは電源を落とした室内のように闇に呑まれる。

 だがしかし、その闇の中でも月だけは消えること無く輝き続ける。

 赤く、どこまでも紅く。まるで、その闇をじっと見下ろしているように。

 

「ごめんよ母さん……私たちの力じゃ〝完全な容れ物〟は用意できなかった。でも、いつか必ず完璧な物を作るから。それまでは、少しだけ我慢して欲しい……」

 

 無限に広がる闇の中。 

 最後に残った気配は頭上に輝く割れた月を見上げ、そう呟いた――――。

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