『ラエル、こちらラースタチカ。正体不明の敵性勢力から攻撃を受けている』
「やあダランド、こちらでも目視したよ。敵の規模は?」
『300m級機動兵器230機、1000m級艦船60隻、その他艦載機多数。ミケの隊が迎撃に上がったが、TW無しでは流石に厳しい』
「わかった。私たちも急いで戻るから、それまでは適当にやり過ごしてくれ」
『了解』
耳元のヘッドセットでラースタチカとの回線を確保したラエルノア。
彼女が危惧した通り、すでに宇宙空間のラースタチカも襲撃を受けていた。
「俺の世界の戦争ならば、一国の総戦力にも匹敵する戦力だ。それがこうも軽々と動員されるとは…………」
「どうするーラエル? とりあえず私は目の前のアイツ、やっちゃっていいかなー?」
「俺もクルースニクで出るぜ! まだケツがムズムズしねぇから暫くは大丈夫だ!」
「そうだね、ユーリーはミナトとティオがTWに乗り込むまでの安全確保を。私はここから直接ラースタチカに跳ぶから、最終的にラースタチカで全員合流するように」
無論迫り来る敵はラースタチカ近辺だけにいるわけでは無い。
見れば、先ほどこの構造物を攻撃してきた巨大な人型兵器はその数を増し、すでに第二射撃の準備に入ろうとしていた。
「待ってましたー! じゃあみんな、ここはこのユーリー・ファンにお任せあれ!」
「おう! へまするんじゃねぇぞ、ユーリー!」
「ミナトもね!」
しかしその時、ラエルノアからの指示を受けたユーリーは不敵な笑みをむふふと浮かべると、そのすらりとした腕を自身の頭上に高々と掲げたのだ――――!
「封印解放――――! でええええええええいッ!」
瞬間、眩い閃光が辺りを照らし、その閃光を突き抜けるようにして純白の体表に赤と緑のラインを描いた巨大な人型が上空の敵軍めがけて飛翔する。
巨人の姿はみるみるうちに巨大化し、300m前後の敵機動兵器へと流星のような跳び蹴りを叩きつけると、次の瞬間には腕から光り輝く刃を伸ばし、数十を超える敵の群れを次々と両断する。
「な、何だあれは!? あれはユーリーなのか!? まさか、彼女は地球人では……!?」
「驚いたかい? 実は彼女はルミナス人でね。見ての通り、全宇宙を探しても生身の強さで彼女の種族に敵う者はいないんだ」
「る、ルミナス人……!? そのような人々もいるのか……宇宙とは、なんと広大なのだっ!」
あまりの出来事にその目を剥いて驚くボタンゼルド。
まるで彼が幼い頃に見たコミックやアニメの世界のようなその光景に、ボタンゼルドはぽかんと口を開いてユーリーの戦いを見つめることしか出来ない。そして――――!
「へッ! ま、生身でも俺の方が強えんだけどな! 俺も行くぜ――――!」
そして飛び立ったユーリーに続くように、その背の鞘から刃こぼれ一つない見事な意匠の施された壮麗な剣を引き抜くミナト。ミナトはそのまま自身の剣を天高く掲げると、その全身に純銀の輝きを宿して叫んだ。
「来い! クルースニク!」
ミナトがそう叫ぶと同時、赤と青の混ざり合った空を突き抜けて光芒が降り注ぐ。
そしてその光芒を潜るようにして、全長300m程の純白の外套を纏った西洋の騎士然とした巨大な人型が降臨したのだ。
「よっしゃあああああああ!」
その全長と同じほどの二振りの長剣を大地に突き刺し、鋭角かつ壮麗な立ち姿で降臨した巨大ロボットクルースニク。
ミナトは自身の呼びかけに応えて現れた愛機に笑みを零すと、クルースニクの胸部から放たれた光の渦へとその身を投じ、吸い込まれるようにしてその内側へと消えていく。
「ら、ラエル艦長っ! 僕のバーバヤーガは――――」
「ああ、もう作り終わってるから呼べばちゃんと来るよ。今の君にはボタン君もいるからね、昨日のうちに少々手を加えておいたから、早速試してみると良い」
「作り終わっただと!? ティオの乗っていたあのロボットのことなら、昨日確かに俺と共に跡形もなく木っ端微塵になったはずでは……!?」
最後にその場に残されたティオが不安げにラエルノアに尋ねる。
しかしラエルノアは眉一つ動かさず、平然とバーバヤーガの新造完了を言い放つと、ティオの肩に乗るボタンゼルドの丸い顔をまっすぐに見つめた。
「そうだよ。だから、また一から作り直しておいたんだ。君ももうよく知ってるだろうけど、ティオはこう見えて結構無茶をする――――悪いけど、何かあればまた君が助けてあげて欲しい」
「…………わかった! 俺に任せておけ!」
真剣な眼差しでティオの身を案じるラエルノアに、ボタンゼルドは力強く頷く。
そして同じように自分を見つめていたティオと互いに目を見合わせると、ティオを安心させるように穏やかな笑みを浮かべた。
「ティオ! 昨日俺が教えたことを忘れないようにな!」
「はいっ! ボタンさん! ラエル艦長や皆をこれ以上心配させないように――――僕ももっと強くなりますっ!」
「その意気だティオ! 大丈夫――――これからは俺も一緒だ!」
ボタンゼルドのその言葉にティオもまた頷く。
そしてミナトがしたようにティオもその場から一歩前に踏み出すと、自身の両手を目一杯に広げてその名を呼んだ。
「冬が来ます! 敵が来ます! 全てを殺す寒さが来ます! 魔女様――――! 僕に皆を守る力を――――貴方の力を貸して下さいっ!」
その祈りにも似たティオの声が一帯に響く。
そしてそれは先ほどのクルースニクと同様、一条の光芒となって大地に堕ちる。
白銀の光の渦の向こう、暗褐色の不気味な巨体の影が浮かび上がり、ひび割れた装甲板を全身に纏った機械仕掛けの魔女――――バーバヤーガがその姿を現わす。
「おおおお!? ティオはバーバヤーガを呼ぶのにそのような口上を使うのか!」
「はわわわ…………じ、実は僕、ミナトさんやもう一人のパイロットのクラリカさんみたいにTWを呼ぶ力が強くなくて……なので、少しでも気持ちを込めようと思ってあんな感じに…………はわわ……恥ずかしいです……っ」
「き、気持ちの問題だったのか!? この世界のロボは全然わからんことばかりだ!」
至極真っ当なボタンゼルドのそのツッコミに、自身の柔らかな頬を染めて照れるまくるティオ。
ボタンゼルドもまたこの世界のロボ事情に驚きつつも、二人は眼前に現れた巨大ロボ、TWバーバヤーガから放たれた光の中にその身を躍らせていくのであった――――。