晴れの日の三人
晴れの日の三人

晴れの日の三人

 

「相手に怪我させないで、いい感じに押し切る! 出来るか!?」

「にゃはは! ならば祓之三(はらえのさん)なんてどうじゃ? 動きを止められるのじゃ!」

「それでいきましょう! 奏汰(かなた)さん、その間は僕たちが!」

「よーーーっし! 行くぞ!」

 

 将軍家晴(いえはる)の見守る中、白洲(しらす)の上を凄まじい勢いで疾走する奏汰、(なぎ)新九郎(しんくろう)の三人。

 瞬間的に意思疎通を終えた三人の内、まずは奏汰が討鬼衆第一(とうきしゅうだいいち)の陣中に飛び込む。

 

「試してみるか――――! 勇者式清流剣、青の型っ!」

「むむっ!? 回避専念っ! 勇者のあれは拙者より遙かに速いでござるッ!」

 

 瞬間、奏汰の姿が青い閃光と共にかき消える。

 光の瞬きは三度。前方への突撃振り下ろしから切り上げ、そして最後に全方位への横薙ぎ一閃を、奏汰はコンマ以下の刹那で斬り放った。しかし!

 

「君、凄いね。(かなめ)から警告されてなければ危なかったよ。でも、俺には見える――――」

「受けたっ!?」

「いいぞ愛助(あいすけ)。そのまま止めとけ!」

 

 しかし要から警戒を受けた愛助と四十万(しじま)はその軌道を事前に読み切っていた。しかもそれだけではない、大きく回避動作を取った四十万と違い、愛助は奏汰の亜光速の斬撃全てを紙一重で受けきっていたのだ。

 三撃目の横薙ぎをその(つば)のない長刀で受け止めた愛助に驚愕(きょうがく)する奏汰。そしてそんな奏汰の背後から、即座に黒檀(こくだん)(じょう)を構えた四十万が迫る。

 

「陽炎剣――――射陽天神(しゃようてんしん)、二連!」

 

 だがしかし、奏汰の一撃を受けきった愛助と後方から迫る四十万。その双方を大きく弾く二条の豪炎が天に昇った。

 その手に持つ二刀を共に赤く燃え上がらせた新九郎が、かつてない力強さで愛助と四十万を同時に奏汰から引きはがしたのだ。

 

「大丈夫ですか奏汰さんっ!」

「助かった!」

「来ます!」

 

 真っ先に突撃する奏汰を新九郎がサポートする。これもまた奏汰と新九郎がこの一月あまりで鍛錬(たんれん)を重ねた連携の一つだった。

 僅かに背中合わせとなって頷き合った奏汰と新九郎はしかし、今度は新九郎がその場に残る形となって奏汰は再び飛翔する。

 弾かれつつも即座に立て直し、挟み撃つ形で奏汰と新九郎に迫っていた愛助と四十万。二人の一撃を新九郎はその手に握る二刀でなんとか凌ぎ流した。

 

「ハッ! ようやく調子が出てきたみてぇじゃねえか。なあ!?」

「いいね。まだ迷いはあるけど、支えられてる。いつも通りの綺麗な君だ」

「はああああああ! 天道回神流(てんどうかいしんりゅう)奥義――――六方天狗(ろっぽうあまきつね)ッ!」

 

 二対一となってもその果敢(かかん)さを失わぬ新九郎の姿に、不敵な笑みを浮かべる四十万と愛助。

 とはいえ、今の新九郎にこの二人と同時に戦う技量はまだ備わっていない。ゆえに、新九郎は間をおかずその二刀を天地へと掲げると、次の瞬間には周囲一切を見境無く切り刻む滅殺(めっさつ)の結界を展開。二対一の不利を押してその場に踏みとどまった。

 

「巫女殿が縛陣(ばくじん)形成を狙うことは百も承知! そう易々と狙い通りにはさせんでござるっ!」

「なんじゃお主。忍者のくせに随分と騒がしい奴じゃな!?」

 

 新九郎がたった一人で四十万と愛助を相手取る中、白洲の上を飛び跳ねながら祓之三の構築へと移行していた凪は、要からの執拗な追撃を受けていた。

 

「アーーーーハッハッハ! それはなにより! 騒がしい奴と言われれば、答えぬわけにはいきますまいっ! やあやあやあやあ、やあやあやあ! 遠からん者は音にも聞け! 近くば寄って目にも見よッ! 我こそは超忍者壬生(みぶ)(かなめ)! 武蔵野国岩槻藩にて生を――――」

「うおおおおおお! 勇者雪崩式飛びつき腕ひしぎ十字固めえええええええええ!」

「ぎゃああああああああ!?」

 

 凪と並走し、自身もその身を空へと踊らて名乗りを上げようとする要。

 だがその時、要は突如として彼女の背後から暴走トラックのような勢いで突撃してきた奏汰によって腕を取られて空中関節を極められると、再び白洲の上へとしたたかに叩きつけられてしまう。

 

「今だ! 凪っ!」

「にゃっははは! 見事じゃ奏汰よ! ならば――――!」

 

 奏汰の突撃によってついに完全に自由の身となった凪は、その幼い顔に猫のような笑みを浮かべ、握り締めた赤樫(あかがし)の棒を天に向かって高々と掲げた。

 そしてすでに投擲(とうてき)していた八つのクナイそれぞれと、自身の持つ赤樫の棒に神力の流れを生みだし、渾身(こんしん)の力を込めて白洲の地面へと叩きつけたのだ。

 

「神式――――祓之三、対人版じゃ! てええええええええい!」

 

 叩きつけられた凪の神力が八方へと散る。すると即座にその力は雷光の放射となって試合場を包囲。凄絶(せいぜつ)な衝撃と閃光を辺り一帯に発生させる。

 そしてそれを見た会場の観客達もまた、昼だというのになお眩しさを感じるその光景に、大興奮した様子で割れんばかりの悲鳴と歓声を上げた。

 

「お……っ!? なるほどこいつは……なかなか重いな。だが……まあ動けない程じゃねぇ」

「うん。これは俺にとってもいい思い出になりそうだ。巫女様の結界を直に喰らった人間なんて、この江戸にも中々いないだろうから」

「はっ……! はっ……!」

 

 雷光の結界の中、凪によってその動きを封じられた四十万と愛助。

 しかし恐るべき事に、二人は自身の状況を確認するようにその手を何度か握り締めると、重々しい足取りながら問題ないとばかりに息の上がった新九郎に歩み寄っていった。だが――――!

 

「行くぞ新九郎っ! 勇者式清流剣――――!」

「はは……っ! 待ってました奏汰さんっ! 陽炎剣――――!」

 

 新九郎に迫る二人の後方。要をノックアウトした奏汰がその身を青く輝かせながら疾走。そしてそれを見た新九郎もその美しい双眸(そうぼう)に再び闘志の炎を燃やし、握り締めた二刀に灼熱の輝きを宿した。

 

「後ろだ愛助ッ! 前は俺がやる!」

「いいでしょう」

 

 しかし四十万と愛助もまたこの刹那の状況に対応した。素早く背中合わせとなった二人は愛助が奏汰を、四十万が新九郎をそれぞれ迎撃の構え――――!

 

「うおおおおおおお!」

「――――鳴神(なるかみ)!」

 

 一閃。

 

 奏汰の青と新九郎の赤が交差し、瞬きの間に互いの位置が入れ替わる。

 そしてその狭間。前後からの挟撃を迎え撃った四十万と愛助が同時にその片膝(かたひざ)を白洲の上に突いた――――。

 

『決! 刻限也(こくげんなり)ッ!』

 

 瞬間、辺りに大気を震わせる和太鼓の音が鳴り響く。

 今にも飛びそうな意識の中。新九郎は斬り抜けた姿勢で固まったまま、ぼんやりとその音を聞いていたのだった――――。

 

 

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