位を冠する者共
位を冠する者共

位を冠する者共

 

「すまん二人とも! 余の代わりは頼んだぞ!」

「言われるまでもない! ゆくぞ奏汰(かなた)、先手必勝じゃ!」

「おっしゃあああああ!」

 

 瞬間。(なぎ)と奏汰、二つの影がその場から消えた。同時に凄まじい突風が境内(けいだい)に巻き起こり、神社を囲む木々が大きくしなる。

 

「キキキ……神代につらなる者共はいついかなる時代においても原始極げんしきわまる肉弾戦がお望みのようですねぇ。では、私は巫女を頂いて良いかね、煉凶(れんぎょう)さん?」

異界人(いかいびと)の力に興味がある」

「ならば――――決まりですなぁ!」

 

 全く同じタイミング、同じ加速で二体の鬼へと飛びかかった奏汰と凪。二人は互いに声もかけぬまま僅かに目配せすると、天と地に別れて移動した各々の相手へと、弾かれるように再加速して挑みかかる。

 

「勇者キイイイイック!」

「ヌウアアアアアアア!」

 

 加速の勢いもそのまま、渾身(こんしん)の力を込めた奏汰の跳び蹴りが巨躯(きょく)の鬼――――煉凶に突き刺さり、同時に発生する大砲が着弾したかのような衝撃と爆音の渦。

 だが煉凶はその衝撃が200トンにも及ぶ奏汰の蹴りを、抜き放った大剣とその体格通りの凄まじい力で防ぎきっていた。

 

「止めた!?」

(たぎ)るぞ、異界人(いかいびと)

 

 煉凶は奏汰の蹴りを受けても傷一つ付かない大剣で半ば宙に浮いたままの奏汰を弾くと、次の瞬間にはその遠心力を利用した加速で地面に着地した奏汰の眼前へと迫る。その様は正にあらゆる存在を飲み込み、粉砕する暴風のよう。

 

「どうした、もっと見せろ」

「っ!?」

 

 大上段から振り下ろされる煉凶の大剣。奏汰は即座に手に持った聖剣リーンリーンを横倒し、全てを叩き潰す勢いで迫る大剣の一撃を受け止める。

 瞬間、奏汰の足下を中心とした大地が潰れるようにして一瞬で陥没(かんぼつ)し、その衝撃に根を巻き込まれた大木が大きく傾いた。

 

「ぐぎぎぎぎぎぎぎっ!」

「これを正面から止めるか。人間とは思えぬ膂力(りょりょく)だ」

 

 自分の半分ほどの背丈しかない奏汰が、片手でも扱えるような長剣で自身の一撃を受けきったことに感心を見せる煉凶。

 そうしている間にも奏汰の足はミシミシと音を立てて地面へとめり込み、周囲の大気を押し出すほどの激突の圧が互いの剣と剣の間から放たれていく。

 

「こ、この野郎……ッ! そっちがその気なら、俺にも考えがあるぞ……っ!」

「それを見せろと言っている。貴様が死ぬ前にな」

「っ――――後悔、するなよ!」

 

 為す術もなく地面へと押し込められていく奏汰。だがその時、奏汰の持つ聖剣リーンリーンの輝きが変化する。無軌道(むきどう)に流れていた七色の光が明滅(めいめつ)し、青一色へと統一。凄まじい光の収束を見せる。そして――――!

 

「そんなに見たいなら見せてやる――――! 超勇者の力を!」

「……これは!」

 

 それは比喩(ひゆ)ではなく、完全な光だった。極限まで高められた奏汰の青が煉凶の視界を覆い尽くす。そしてその上空――――。

 

「キ!? なんですか、あの不快な光は!?」

「ほいほいさー!」

「グエッ!」

 

 奏汰と煉凶が凄まじい肉弾戦を演じる地上から十メートルほど上空。

 自身の周囲にリング状に(つら)なった符の結界を展開し、縦横無尽(じゅうおうむじん)に宙を飛ぶ凪が叩きつけた赤樫(あかがし)の棒が、眼下の奏汰に気を取られた五玉(ごぎょく)の持つ四つの顔のうち一つを完膚(かんぷ)なきまでに叩き潰す。

 

「この凪姫命(なぎひめ)対峙(たいじ)してよそ見とはの、舐められたものじゃ!」

「ギギ! これはこれはご無礼を、神代の巫女様。私はもうほれこの通り、顔も一つ潰れ、大層情けない姿となりました。ここはどうかこの潰れた顔に免じて――――」

 

 鬱蒼(うっそう)と生い茂る木々の間を後方に滑るように飛翔する五玉。おびただしい量の体液を垂れ流す潰れた顔を片手で押さえながら、五玉は自らに向かって追いすがる凪に懇願(こんがん)した。

 

「――――どうぞ、死んで下さいませ。キキキキキ!」

「むむむっ!?」

 

 残された三つの顔で狂ったように笑う五玉。五玉の小さな体が凪の周囲を旋回するようにぐるぐると(まわ)り、跳ねる――――そしてその後に残されるのは、五玉の流す体液。

 

「ちっ!」

 

 五玉の狙いに気付き、後方に飛びすさろうとする凪。

 しかし彼女の判断はわずかに遅かった。

 凪の周囲を完全に包囲した五玉の体液。五玉の殺意と瘴気(しょうき)が解放され、それに呼応(こおう)して五玉の体液は一斉に雨粒のように細かく離散(りさん)。その場から反動もつけずに超音速の弾丸へと変じると、凪の小さな体めがけて撃ち放たれた。

 

「ぐぐ――――っ!」

「これぞ我が死流葬送(しるそうそう)――――落涙(らくるい)にございます」

 

 (わず)か数秒の間に数千、数万にも及ぶ液体の弾丸が機関砲のように打ち込まれる。凪の周囲を守護する結界が激しい不協和音と共に崩壊の火花を上げ、球状に(おお)われた領域に亀裂が入る。

 凪はそのまま五玉の放った弾丸の雨に押し潰されるようにして地面へと叩きつけられると、それでも尚降り注ぐ無数の弾丸に飲まれ、粉塵(ふんじん)の向こうに消えた――――。

 

 

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