守れなかったまめたんっ!
守れなかったまめたんっ!

守れなかったまめたんっ!

「そんなっ! 船は全部僕が引きつけたはずなのにっ!」

 

 爆発炎上するキャラバン。
 その光景を見たアルルンは、押し殺したような悲鳴を上げた。
 二週間ほどの僅かな時間だったが、アルルンにとってキャラバンで過ごした時間はとても楽しく、実りあるものだった。
 そしてなにより、目の前で火を噴くその場所には既にアルルンにとって大切な仲間となったピコリーがいるのだ。

 

「チッ! エクスは何をしている!? アルルンよ、私は先にピコリーの元に向かう。貴様はウゴゴと共に周囲を警戒しながら来い。もし別働隊が現れれば、そちらの相手は貴様らに任せる!」

「わ、わかりましたフェア様! ウゴゴさん! 僕たちも急いであそこにっ!」

「ウゴゴオオォォ! アルルン連れていく! しっかり掴まれぇ!」

 

 忌々しげに舌打ちしたフェアはアルルンにそう言い残すと、即座にその場から襲撃を受けるキャラバンへと転移する。
 アルルンもまた、自分を肩に乗せるウゴゴに声をかけると、逸る思いを抑えながらピコリーの元へと急ぐのであった――――。

 

 ●    ●    ●

 

「――――ピコリー! エクス! 無事かッ!?」

 

 自身の周囲に炎と煙を防ぐ障壁を展開したフェアが、一瞬でキャラバンの内部へと出現する。フェアに迫ろうと先鞭を伸ばす炎の渦が障壁によって正円の形に不自然に湾曲し、彼女の持つ超常の力をまざまざと見せつける。

 

「――――や、やあ……フェア。遅かったね。すまないが、起き上がるのに手を貸してくれるかな……」

「エクス? 貴様、その怪我は……ええい、なんと頼りにならん奴よ! ピコリーはどうしたのだッ!?」

 

 フェアの転移した先、燃えさかる室内の壁面に、エクスが自身の脇を抑え、苦しげな息をつきながら地面に倒れていた。
 エクスの腹部からは銀色の粒子が漏れ出しており、その光は大気中に流出すると、霧散するように分解されて消滅していく。

 

「残念だけど、ピコリーさんは連れて行かれてしまった。いやぁ……驚いたよ。まさか連王国がここまで魔王や神の力の研究を進めていたなんてね。あ、言っておくけど、私じゃなくて君がここに居ても結果は同じだったと思うよ?」

「なんだと? 情けなくボコボコにされている役立たずが何を言うか。もういい、私はピコリーを追うぞ」

「ああ、まあそう急がないで。もう彼らは今頃連王国だよ。そういう機械を使っていた。私の魔法を遮断したり、魔力を持たない人間でも瞬間的な転移を可能にする機械をね」

「機械だと……」

 

 エクスの発したその単語に、フェアは眉間に皺を寄せて忌々しげな声を発した。
 フェアは、連王国のそれらの技術にいくつか思い当たる節があったからだ。
 たった今交戦した飛翔船もそうだが、それ以上に先日アルルンが一人で撃退した巨人ウゴゴを中心とした連王国の騎士団――――。
 
 ウゴゴが運んでいた装備の中に、彼らが魔封石と呼んでいたという魔力を遮断する紫色の結晶体がそのままの形で残されていたからだ。
 それだけではない、ウゴゴはその身に取り付けられた機械によって、その自我をある程度連王国の制御下に置かれていた。
 地上で長い時を過ごしてきたフェアにとっても、かつて人間達が独力でそのような技術を生み出したのを見たことはなかった。

 

「やれやれ……やはり神がいなくてはうまくいかんな。人間という存在は、我々には手が余る」

「それはツインシールドが神様に挑んだ時にわかってたことだろう? 彼が魔王を解放しろ! とか言って神様と戦わなければ、今も神様はここにいただろうしね」

「あれは人間やツインシールドに理があった。私も魔王という役職はなくすべきだと思っている。あの当時から、ずっとな――――」

 

 フェアはエクスの傷口を七色に輝く自身の魔力を送り込んで治療すると、煩わしそうに手を振り払い、周囲で燃えさかる炎を一息に鎮火させた。

 

「ピコリーっ!? フェア様、ピコリーはっ?」

 

 そしてそれと同時、すでにキャラバンのすぐ傍までやってきていたアルルンが、崩れた窓枠から転がり込むようにしてその場へと飛び込んでくる。
 必死の顔でピコリーを探してきょろきょろとあたりを見回すアルルンに、フェアはたった今エクスから聞いた内容を伝えた。

 

「そんなっ! どうして、どうして連王国の人たちは、ピコリーを……っ」

「さあな。しかし大方の予想はつく。ただ魔物を滅ぼしたいだけならば、わざわざ捕えたりはしない。大方魔王の持つ無尽蔵の魔力を何かに利用しようとでもいうのであろう」

「ピコリーの力を……っ! そんな――――っ!」

 

 フェアからの話を聞き、あまりにも理不尽なピコリーへの仕打ちに怒りを露わにするアルルン。そもそも、神から望んでもいない魔王の力を強制的に与えられたと言うだけで、ピコリーが今までに受けた苦痛がどれほどのものだったか。
 アルルンがピコリーと共に過ごした時間はまだ短かったが、それでもアルルンは、彼女が今までに味わってきた深い苦しみと絶望を何度となく聞かされた。
 そしてそれと同時に、そんな暗い絶望の淵に立たされながらも、それでもアルルンに気丈な笑みを浮かべるピコリーのために、なんとしても力になりたいと強く願っていた。守りたいと思っていた。

 

「フェア様っ! 僕はっ!」

「――――わかっている、皆まで言うな。私も……貴様と同じだ」

 

 ピコリーを助けに行かなくてはならない。
 たとえ相手が強大な力を持つ国家全てであったとしても。
 魔王を救うことで、あらゆる人類から恨まれるヘイトを集めることになっとしても。それでもアルルンの心には、ピコリーを助けるという決意しか存在していなかった。

 

「やれやれ……これじゃあの時と全く同じじゃないか。魔王はともかく、ツインシールドに記憶の継承なんて機能は備わっていない筈だけど。不思議なものだね――――」

「エクスよ。随分と偉そうにしているが、貴様にもピコリーを攫われた責任は取って貰うぞ。法皇としての立場でハイランスを動かせるか?」

「もちろん。元々連王国とは最近衝突気味でねぇ。この前も今の筆頭国王を不敬罪で投獄したんだ。ここでさらに魔王の力にまで手を出したんだから、私たちが動く理由としては十分だよ」 

「フン……急げよ」

 

 エクスは肩をすくめて頷くと、既に塞がった傷口を押さえながらゆっくりと立ち上がった。

 

「本来であれば、もっと鍛えてからだと思っていたのだがな――――アルルンよ、貴様にも大いに力になって貰うぞ」

「はいっ!」

 

 今すぐにでも一人でピコリーの元に飛び出していきそうなアルルンの瞳を見つめながら、フェアは既に遠く離れたピコリーの力の位置を探知するのであった――――。

 

 

 

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