狙われるまめたんっ!
狙われるまめたんっ!

狙われるまめたんっ!

 

「そうですか……此度の遠征も、レオス様は魔王を討伐できませんでしたか……」

「困ったねぇ。魔王の被害は減っているといっても続いているわけだから、今もピンピンしてるのは間違いないと思うんだけどねぇ」

 

 そこは、天を衝く巨大な塔の最上階。
 大陸で最も多くの信徒を持つハイランス正教の総本山、白の塔である。

 恭しく頭を下げる純白の法衣を纏った信徒からの報告を受ける、より豪奢な法衣を纏った二人の男女。
 そのどちらもが神が如き完璧な美貌と、果てまで届くかのような、耳にしたもの全てが恍惚と意識を高ぶらせるような美声を持っていた。
 二人の容姿はとても似通っていたが、その美しく流れるような長髪の色は黄金と白銀という相違があり、互いの瞳の色も同じように異なっていた。

 

「わかったよ。報告ありがとうね。引き続き、勇者レオスには各方面からの便宜をよろしく。無理をせず、確実に魔王討伐を果たすように」

 

 そう言って信徒を下がらせる銀髪の青年。彼こそはこのハイランス聖教を統べる二人の法皇のうちの一人、エクスピアリドレリアス・ハイランス。
 人々からは畏敬の念を込めてエクスと呼ばれるその青年は、まるで太陽のような笑みを浮かべて信徒を見送った。

 

「――――魔王もなかなかしぶといねぇ……後はレオスが見つけさえすれば、確実に倒せるはずなんだけど」

無限の再生を打ち破る無限の破壊――――かつてどのような伝承にも現れなかった真の勇者が、ついに人類の中に現れたのはそれだけで喜ぶべき事です。焦りは禁物ですよ、兄様」

 

 信徒を見送った際の笑みを完全には消さないまでも、その表情に困ったような色を浮かべるエクス。そんなエクスに向かい、隣に立つ黄金の髪の女性――――もう一人の法皇であるリレアエムンリスト・ハイランスが静かに声をかけた。

 

「ははは、焦ったりはしないよ。当然だけど、私たちハイランスにとって魔王は存在し続けてくれた方が都合がいい。ただ、レオスはやる男だからね。結構あっさりと魔王を殺せるかと思ったけど、なかなか上手くいかないなぁってね」

「やはり災厄の魔女の存在が大きいのでしょうね……しかし、今の私たちには勇者レオスだけでなく、賢者ルーントレスもいます。いかに災厄の魔女とはいえ、いつかは――――」

「災厄の魔女、ねぇ……あの子もいい加減魔王なんて守ってどうするつもりなんだか……私たちのように大人しく神様のご意向に従っている方が、よっぽど平和に暮らせるだろうに」

 

 リレアのその話に、ますますもって理解しがたいとでも言うかのように肩をすくめ、小馬鹿にするように鼻を鳴らすエクス。

 

「――――フェアが心配ですか? 兄様」

「ハッ……まさか。ぜんぜん……これっぽっちも心配なんてしてないよ……本当だよ?」

 

 エクスと違いあまり感情を伺うことのできないリレアの表情に、僅かだが悪戯っぽい笑みが浮かぶ。エクスはからかわれたと思ったのか、平然を装いながらもその顔を逸らした。

 

「フフッ――――そういうことにしておいてあげましょう。ただ、実は先日、少し気になる光景を視たのです」

「気になる光景? リレアの未来視で?」

「はい――――連王国の艦隊が動いています。恐らく、近いうちに何かしらの火種が放たれるでしょう」

 

 リレアの発したその言葉に、エクスは今度こそあからさまに眉を顰め、嫌悪の感情を露わにする。

 

「懲りない奴らだねぇ。あそこの盟主を不信心の罪で投獄したのって、つい最近じゃなかったかな?」

「連王国にはいくらでも野心家な王がいますので……それにもう一つ――――大敵アークエネミーを示す星がフェアの持つ深紅の輝きに接近しました。もしやとは思いますが、ツインシールドの者が――――」

「え!? そうなのかい? うわぁ……それはまずいね……!?」

 

 ツインシールドという単語を聞いたエクスは、先ほどまでの嫌悪の表情から今度は紛う事なき困惑の表情へとその美しい相貌を歪める。
 コロコロと激しく表情を変えるその様は、とても数億の信徒の頂点に立つ法皇には見えなかった。

 

「でもなんでツインシールドがフェアに? この数千年でずっと血も薄まって、全挑発オールヘイトを使いこなすような者はもういないはずだろう?」

「それに関しては私もまだ把握していません。しかし――――たとえ何千年、何万年経とうとも、あの血は決して許されない。勇者の出現と魔の後退、そして大敵アークエネミーの表舞台への回帰――――偶然とは思えません」

 

 それらリレアの報告に、いよいよもって思案の色を深くするエクス。
 エクスはつかつかと自らが座する祭壇の上を何度も行き来すると、大きなため息をついて頷いた。

 

「――――可哀想だけど、もしそのツインシールドが全挑発オールヘイトを使えるというのなら、絶対に生かしておくわけにはいかない。面倒だけど、私が行くしかないねぇ……」

「あら……お兄様が行かれるのですか?」

「うん。久しぶりにフェアの顔も見たいし、少し留守にするよ。それに、聖教騎士団じゃ全挑発オールヘイトの相手はできないだろう?」

 

 エクスは首を傾げて尋ねるリレアに笑みを浮かべると、早速祭壇から下りて別室へと向かう。リレアはそんな兄の背に向かって両手を胸の前で握り合わせると、両膝をついて祈りを捧げた。

 

「どうか――――神のご加護がありますように。お早いお帰りを、お待ちしております――――」

「ありがとう。じゃあ、行ってくるね」

 

 リレアの祈りを背に受けたエクスは、最後に一度振り返ってリレアに手を振ると、そのまま別室へと続く扉を抜けて姿を消した――――。

 

 

 

 

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