最終クエストの門番
最終クエストの門番

最終クエストの門番

 

「――――よし、皆準備はいいか?」

「ああ。デミ・アブソリュートの調整は済んでいる」

「うふふふ。私もスキルチェック終わりました。この壁、守るだけで無く潰すのにも使えるんですねぇ……うふふ」

「はい! 私もいつでも行けます!」

 

 ヴァーサスたちが最初に降り立った『始まりの村』と呼ばれる村の入り口前。
 集まった門番たちは皆必要な道具や装備を整え、これから臨む初クエストの場所へと向かおうとしていた。

 

「いや、マジにすまなかった。正直俺もこんな世界だとは思っていなくてな」

「気にするなクロガネ殿! 元はと言えば真っ先に飛び込もうとした俺の不覚! 最近はリドルのおかげで気をつけていたのだが、ついいつもの癖が出てしまった。申し訳ない!」

「いえいえ、どちらが悪いという話はややこしいですし今は止めましょう。そんなことは気にせず、いつも通り邪魔者は全て排除してしまえばいいのですよ! ただ、それはそれとしてヴァーサスはもう少し落ち着いて下さいね! もうすぐお父さんなんですから!」

「クロガネとやら、今回はミズハに免じて見逃してやる。しかし次はないと思え……! 宇宙の藻屑となりたくなければ、せいぜい盗賊として鍵開けと罠解除を頑張るのだッ!」

 

 出発前、改めてこのような事態となったことを謝罪するクロガネ。

 とはいえ、今この場にいるのは全員が全員宇宙屈指の修羅場を潜り抜けてきた精鋭である。既に起こってしまったことを引きずるような者は一人もいなかった。
 あれほど怒っていたダストベリーも、一度クロガネを吊してカラスの群れにつっつかせたことである程度溜飲が下がったようだ。

 

「クロガネ殿の持つ事情は俺にはわからない。だが、貴殿は俺が信じるミズハが信頼できると言った男だ。ならば俺もミズハと同様、クロガネ殿を信じよう」

「そう言って貰えると助かる。俺もここから出られないのは困るんでな。 ――――しかし……ミズハ嬢がああなのもあんたの影響ってわけだ」

 

 その蒼い瞳に熱い炎を燃やし、クロガネに力強い笑みを浮かべるヴァーサス。クロガネはそのまっすぐ過ぎる瞳を躱しはしないものの肩をすくめ、なるほどという風にミズハへと視線を向けた。

 

「やっぱりあんた……似ているな、あいつと――――」

「――? あいつとは?」

俺たちのとこのあんたさ。今のあいつは自分のことを反転者リバーサーって呼ばせているが、俺はあいつをその名前で呼ぶのは好きじゃない」

「ちょ、ちょっとちょっと! どこが似てるんですか!? 私も少ししか見てませんけど、あんな昆虫採集と読書が趣味みたいなインドア派と私たちのヴァーサスは正反対じゃないですかっ!」

「――――その通りだ。奴の領域とヴァーサスの領域は全くその質が違っていた。とても似ているようには思えんな」

 

 クロガネのその言葉に異を唱えるリドルと黒姫。しかしクロガネは涼しげな表情で足下の荷物を拾い上げて肩に担ぐ。

 

「一緒さ。俺たちはみんな多かれ少なかれ、あいつに影響されてついて行ったんだ。色々あったが、どんなときも最後にはあいつの周りに人が集まる。 ――――そこに関しちゃ、思い当たる節があるんじゃないか?」

「人が、集まる――――」

 

 その発言にうぐぐと押し黙る二人のリドル。それを聞いていたミズハも、その胸の前で小さな手を握り締め、何事かを想うように俯いた。

 

「ま、こんなことになった罪滅ぼしってわけじゃないが、現場への道すがら俺の知ってる普段のあいつの話ならしてやるぞ。興味があればの話だが」

「はっはっは! ならば聞かせてくれクロガネ殿! 少なくとも俺は興味がある!」

「あー……俺のことはクロガネで頼む。殿なんて付けられるのは性に合わん」

「承知した!」

 

 クロガネとヴァーサスはそう言って頷き合うと、他のメンバーの状況も確認した上で初クエストの現場へと出発したのであった――――。

 

 ●    ●    ●

 

 ――――クエスト【魔王に支配された街を解放せよ】

 

 これが、ヴァーサスたちの受注した初クエストである。

 もはやレベルはカンストし、最難関クエストどころかレイドボスすら問題なく倒すであろう彼らに相応しいクエストは、もはやこれ以外残っていなかった。

 このクエストはゲーム世界における最終クエストにあたり、その最後にはラスボスである魔王が待ち構えている。つまり、このクエストをクリアすれば恐らくこの世界からも脱出できるようになるだろう。

 本来であれば馬車を使ってショートカットするところだが、ヴァーサスたちはリドルの発案で徒歩で現地まで向かった。
 それはまだこのゲーム世界での戦いに慣れていないヴァーサスたちに、この世界での戦闘を理解させるのが目的だったのだが――――。

 

「クハハハハハッ! 我が滅びの雷を喰らうがよいッ!」

「行くぞアブソリュート……標的はゴブリン。ミサイル、全弾発射」

「はああああ! 一刀両断!」

「あらあら……わたくし、ゴーレムの皆さんにいくら殴られても傷一つつきません……障壁も張っていないのに、不思議な気持ちですわ……」

「えーっと……それではとりあえず【しまう】と……おおっ! 目の前の巨人が段ボール箱に箱詰めされましたっ! ではでは【おくる】は……? なるほど、箱詰めした相手をどこかに消す……即死魔法みたいなものですね!」

全殺しの槍キルゼムオールよ! うおおおおお!」

「うん、まあ…………なんだ。あれだな…………こいつら、あんまり外と変わらねぇな?」

 

 顔をしかめて立ち尽くすクロガネの前に広がる地獄絵図と死屍累々。

 彼らにウォーミングアップの必要は無かった。それどころかヴァーサスなどは何の疑問も抱かずに全殺しの槍キルゼムオールを呼び出している。ヴァーサスの持つ圧倒的エゴが、このゲーム世界のルールに勝っているのだ。

 こうなると、もはや哀れな魔王の命運は決まったと言って良いだろう。
 
 道中に住みついていた哀れな雑魚モンスターたちを根絶やしにしながら進むヴァーサス一行。クエスト達成に関しても、障害となるような存在はいないかと思われた。

 しかし、その様相は目的地へと近づくにつれ僅かずつ変化していく――――。

 

「なんでしょう……これ、道が……あそこに見える街も……っ! リドルさん、あれってもしかして…………っ!?」

 

 先ほどまで長く続いていた剥き出しの大地による街道が終わる。
 確認するように地面へと片膝をついていたミズハが、顔色を変えて後方のリドルへと向き直った。

 

「いやはや、これは…………いよいよ少しばかりキナ臭くなってきましたね。皆さん、どうやらここからが本番みたいですよ」

 

 舗装された平らで滑らかな灰褐色の道が、目の前の街へと一直線に伸びていた。

 その道の先に広がるのは、無数の長方形が林立する石造りの街。

 それは黒姫やリドル、ヴァーサスとミズハには見覚えのある建物だった。
 かつて四人が見た大迷宮の地下とはまた趣を異にしていたが、それは確かにあの街と同様の清潔だが無機質な世界――――。

 

「こいつは……どうなってやがる……っ!?」 

 

 一行の最後尾から、クロガネの驚きの声が響いた。

 目の前に現れた街の姿を見たクロガネは、驚きのあまり持っていた自身の荷物を地面へと力なく落とすのであった――――。

 

 

 

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