サメも通さない門番
サメも通さない門番

サメも通さない門番

 

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『因果サメ』
 種族:サメ 
 レベル:18400
 特徴:
 あまたの平行次元で暴れ回った破壊の化身。司る領域は海。
 次元によっては地上に住む生物すら絶滅させた世界線も存在する。
 群体型や単体型など様々なタイプが存在するが、この個体はハイブリッド型。
 実はこのサメとは別に、巨大な類人猿と恐竜型の災厄の象徴が存在する。

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「行くぞサメよ!」

『フンッ! 門番の次はサメだと!? 図体はでかいが脳みその足りん下等生物如きがッ! ただの魚類が吸血鬼に勝てると思うか!? お前はこのジオにとってのフィッシュなんだよーーーーッ!』

『さて、このような食欲だけの化け物は美味そうなエサをくれてやるのが良かろうて!』

 

 迫り来る因果サメに対し、三者三様の攻撃を繰り出すヴァーサスと吸血鬼ジオ、そして怪盗那由多面相。

 

『喰らって死ねぃ! 異次元切断眼出熱線ディメンジョン・リッパー・アイズ・レーザー!』

『サメを葬るには古来よりダイナマイトと決まっておる! 我が輩特性のこいつをじっくり味わうといい!』

「一気に決めるぞ、全殺しの槍キルゼムオールよ!」

 閃光。そして凄絶な爆炎の華が夜の闇を照らす。

 ジオはその両目から強烈な貫通力を誇る熱線を放ち、那由多面相は一つの街すら吹き飛ばす威力の爆弾を因果サメの口腔内に放り込んだ。そしてヴァーサスは全殺しの槍キルゼムオールによる因果破壊の一撃をただひたすらにまっすぐに繰り出す。

 ジオの一撃も、那由多面相の爆弾も相当な威力だ。その上に全殺しの槍キルゼムオールの一閃すら受ければ、神ですら即座に消滅する他ない。

 しかし――――。

 

「これは……!?」

 

 凄まじい閃光の渦から、その全身をズタズタに砕かれ、骨すら見えるような有様で因果サメの巨体が三人めがけて突き進む。三人はそれぞれその突進を回避するが、因果サメの巨体が巻き起こす凄まじい烈風に混ざり、とんでもないものが撃ち放たれていた。

 

「――――っ!? サメだ! 無数のサメが風に混ざっている! 気をつけろ!」

『ウリイイイイイ! 下等生物が! このジオ様の肉体を傷つけおるかああ!』

『ぬおおお!? 我が輩もう帰りたい! メルト君を連れて秘密基地に帰りたい!』

 

 なんと因果サメはその崩れた肉体から分裂するようにして無数の通常サイズのサメを生みだし、ヴァーサスたちめがけて突撃させてきたのだ。放たれたサメは一見すると普通の空飛ぶサメに見えたが、その凶暴な牙だけでなく、肉体に僅かでも触れただけで吸血鬼ジオの肉体を抉り取っていく。

 那由多面相は周囲に多角形の小型障壁を展開し、ヴァーサスは迫り来るサメを全て見切って切り払う。

 

全殺しの槍キルゼムオールの効果が薄い! どういうことかわかるか?」

『知るかそんなもの!? なんとかしろ門番!』

「いやすまない! 今のは俺の盾に聞いていたのだ! なるほど……よくわからんが、こいつを倒すには以前闘った神と同じ、全殺しの槍キルゼムオールの力を引き出す必要があるということか…………」

 全殺しの槍キルゼムオールの攻撃を生き抜いて出現した因果サメへの疑問を、全反射の盾オールリフレクターに尋ねるヴァーサス。

 その答えはシンプルなもので、このサメ出現の因果が他の平行世界全てに及んでいるため、あくまで一つの世界での因果を根絶やしにする通常状態の全殺しの槍キルゼムオールでは滅ぼしきれないのだ。

 全ての平行次元における因果を根こそぎ破壊する進化した全殺しの槍キルゼムオールならば、この因果サメも容易く滅殺可能だった。だが、それは全反射の盾オールリフレクターの判断で推奨されなかった。

 全反射の盾オールリフレクターは所持者であるヴァーサスにしか届かぬ声で言った。『サメ映画を愛する人々が悲しむ』と――――。

 

「うむ……! 全くもってよくわからんが、このようなサメでも他の世界ではきっと何かの役に立ち、人々の人気者となっているのだろう……! ならば、やはりこのサメはあくまで俺たちの世界でのみ倒さねば!」

 

 進化した全殺しの槍キルゼムオールの力はあまりにも強すぎるのだ。

 この世界では邪悪な存在でも、他の平行世界ではなんの罪も犯さずに平和に暮らしているような例はいくらでもある。というよりも、大抵の場合はそうだ。

 別世界では平穏な暮らしを送っているかもしれない存在を、この世界では邪悪だからといって一纏めに抹消するような決断はヴァーサスには出来なかった。

 かつての名も無き神相手でも、ヴァーサスは全殺しの槍キルゼムオールの進化した力を使えたにも関わらず解放しなかった。

 リドルと黒姫が融合した門の力を使い、他の平行世界への被害を最小限にしていたからこそ、あの最終決戦では名も無き神に全殺しの槍キルゼムオールの真の力を使えたのだ。

 やはり、今ここでその力を使うことは出来ない。ヴァーサスはそう判断した。

 

「だがどうしたものか……! ただでさえ船が沈むまで時間が無いというのに、サメも増えるとは!」

『いかん、ヴァーサス君! 我が輩たちを襲ったサメ共がダイタニックに向かっているぞ!』

「くっ! 俺の不覚か――――っ!」

 

 那由多面相がそのマスクの下に冷や汗を流しながらヴァーサスに叫ぶ。
 見れば、先ほど撃ち放たれた無数の小型サメは、そのまま眼下のダイタニック号へと一直線に降下を開始していた。

 あのような凶悪サメが大群でダイタニック号に辿り着けば、船上は一瞬で血の海となってしまうだろう。ヴァーサスは即座にそのサメの群れを防ごうと自身も降下しようとする。だが――――。

 

 ――――あなたは門を通りたい。私は門を通さない――――

 

「――――っ!? これは!?」

『なんだぁ!? この耳障りな音は!?』

『これは……! メルト君の歌である!』

 

 ――――私はあなたを傷つけない。ただ門を守る。それが私の誓いだから――――

 突如として聞こえてきたその歌声に、驚きの声を上げるヴァーサス。

 その歌は確かにメルトの声だった。しかし周囲を見回してもメルトはもちろん、配信石の類いすら見あたらない。だがその歌はまるで自分のすぐそばでメルトが歌っているような、それほどの臨場感と透明感を持った歌声だった。そして――――。

 

 ――――どうか届いて。月の下で傷ついたあなたに。陽の下で涙を流すあなたに――――
 

 

『お、おおおお! これは! これは! 我が輩の体に、心に! 力が漲ってくる! メルト君! メルト君が我が輩のために歌っている!』

『ウリイイイイイイ!? なんなのだこれはぁ!? が、我慢できん! 最高にハイって奴だぁぁぁぁッ!』

「そうか……! やったなリドル! メルト殿!」

 

 空中でその全身から黄金の輝きを発する三人。配信石越しではその力を発揮しないはずのメルトの歌が、今確かに遙か天上で闘う三人の元に届いたのだ。

 そして当然、その歌声を聴いたのは彼らだけでは無い――――!

 

 ――――私はあなたを偽らない。今ここで出会えたことが奇跡だから――――

 

 瞬間、ダイタニック号から金色の光芒が天に昇った。

 それは、凄まじいまでの生命力の光。

 その圧倒的光に照らされたサメの群れがひるむ。

 それと同時、光り輝くダイタニック号の閃光を抜け、無数の流星が夜の闇へ飛び出していった――――。

 

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