光の先へと進む門番
光の先へと進む門番

光の先へと進む門番

 

 危機は去った。

 門番皇帝ドレスの力は名も無き神を凌駕した。

 平和を取り戻した帝都ディガイロンでは盛大な祝勝パレードが行われ、ドレスの門番としての名声は更に高まることになる。

 そして、それから数日後。帝都の地下第七層では――――。

 

「このクレープおいしー! 普通のクレープに見えるのに!」

「私の事前調査によると、こちらの店主はクレープに使う生クリームに拘りがあるそうです。クレープに合う、さっぱりとした乳を出す牛を一から自分で育てているとか」

「ハハッ! さすがユキレイだ、まさかそんなことまで調べてるなんてね! このクレープ、カムイの言うとおり凄く美味しいし、後でちゃんと皇帝お墨付きシールを贈ってあげないとね」

「はむ……はむ……おいしい。くれーぷ、おいしい。はむ……わっしょい……むふふ……」

 

 ドレス達は今、以前カムイが行きたいと言っていたクレープの店にやってきていた。店舗の半分ほどを貸し切りのような形にしているが、辺りには当然のように人だかりが出来ている。

 無理もないだろう。今この場には、おそらく大陸中で最も人気のある人間である門番皇帝ドレスと、彼の近衛門番である門番ランク6のカムイ・ココロ。そして二人に比べて露出は少ないが、やはりこちらも国民から多大な人気を集める若き宰相ユキレイの三人が揃っていたのだから。

 そしてそれだけではない。多くの人はその実物を見たこともないが、ドレスの隣で大きなクレープを頬にクリームをつけながら食べる銀髪の少女は、この星の女神エアである。そしてエアの隣には、小さな羽の生えた空飛ぶ兎のような生物がパタパタと浮遊していた。

 

「あの……本当に色々とご迷惑かけちまってスンマセン。しかも助けて貰った上にこんな美味いもんまで食わせて貰って……うまうま」

「そんなに畏まらなくて良いんだよ。クータンの方こそ体の調子はどうだい?」

「バッチリっす! ドレスさんから受けたこのご恩は絶対返すんで、なんでも遠慮無く言ってください!」

 

 クータンと呼ばれた浮遊兎は、その可愛らしい姿に似つかわしくない少々厳つい言葉遣いで喋りながら、くるくるとドレスの周囲を回った。 

 実はこの浮遊兎こそ、先だってドレスが名も無き神の残響から救い出した上位神の一柱である。クータン本人の話では穀物と料理を司っているらしく、はっきり言って戦闘には全く向いていなかったのだという。

 

「君が協力してくれるならとっても助かるよ。食べ物や料理はこの大地に生きる人々にとって無くてはならないものだからね。僕にも色々と教えて欲しい」

「でもさ、なんであんな偉そうな神様の中であんただけそんな庶民派なの? どう考えてもあいつらって食事とか必要なさそうじゃない?」

「話せば長くなるんスけど、俺たちも最初から神様だった訳じゃないんスよ。昔は皆さんと一緒で料理したり、美味しいもの食べてワイワイやってたッス。その頃は俺も結構偉かったんですけど……他の皆がどんどん上の次元に行くにつれて、カムイさんが言う通り飯食ったり酒飲んだりしなくなっちゃって……あの戦いの時も、お情けで連れてって貰った感じだったんで……」

「そう……私、食べるの大好き。でも、たしかに上のみんなは食べてなかった……」

「――――高次存在になるということは、得るものばかりではないという訳ですね。この度、陛下も新たなる力に目覚めたとのことですが、どうかその点はお忘れ無きよう」

「そうだね……僕も気をつけるよ」

 

 そう言うと、ドレスは自身の胸に静かに手を当てる――――。

 今、彼の腰に全殺しの剣スレイゼムオールは存在しない。全防御の盾オールディフェンダーも消失した。そのどちらもが、ドレスという存在と一体化し、彼の意志に呼応してその姿を顕現するように有り様を変えていた。

 こうしている今も、ドレスが耳を傾け、呼びかければ二つの因果律兵器はドレスに言葉を返してくれる。表面上はただ二つの武具を普段から持ち運ぶ必要がなくなったに過ぎない。しかし――――。

 

「人を越える存在、か…………僕が目指していた、みんなの光になるっていう夢に近づけたってことなのかな?」

「んん……? よくわからないけど、それって良いこと? 良いことよね? ドレスの夢に近づいたんだもんね! おめでとう、ドレス!」

「そうだね。ありがとう、カムイ」

 

 ドレスは既に理解していた。自らが人の領域を決定的に踏み越えたということを。

 今のドレスには、それがこの先どのような未来をもたらすのかはわからなかった。しかしそんな彼の脳裏に、既に彼よりも先に次元超越者へと至ったヴァーサスの姿が浮かぶ。

 そして、今自分の周りを見回せばカムイが、ユキレイが、エアが、そして新しく力になってくれるという上位神のクータンがいる。そしてそんな自分たちを信じて日々を生きる大勢の人々が――――。

 

「うん…………僕は一人じゃない。いつか僕にとって光すら役不足になるようなら、僕はその光も越えて先に行く。 ――――みんな、これからもよろしく頼むよ」

 

 ドレスはその胸の内で決意を新たにすると、固い絆で結ばれた仲間たちに向かって輝くような笑みを浮かべた――――。

 

 

 大陸最強の門番。門番皇帝ドレス・ゲートキーパー。

 彼が抱く閃光のような夢は、今再びその輝きを取り戻した。

 彼の輝きはやがて光すら越え、まだ誰も見たことの無い領域へと到達するだろう。

 その頂きを目指す彼の長い道のりは、まだ始まったばかり――――。
  

 

『門番VS名も無き神の残響 ○門番 ●名も無き神の残響 決まり手:皇帝領域エンペラードメイン』 

 

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