団結する門番
団結する門番

団結する門番

 

『もうすぐ、この世界は終わる……全部終わりにして、次の世界に行く。私よりずっと上のみんながそう決めた……ごめんね』

 

 女神エアの発したその音は、その場にいた全ての者を震撼させた。

 即座に何名かが前に進み出ると、エアに対して詳細な説明を求めた。

 

『こことは違う、別の世界に繋がる門……それが、この星にはある。私の仲間、空の神ヴァルナはその門を通ろうとして、今ここに居るヴァーサスに破壊された。その存在ごと、全てを……』

「ぷっ……ハッハハハ! ヴァーサス、君はまた僕が知らない間にそんなことをしていたのかい? しかも以前僕らが二人で倒したようなカルト教団の神なんかじゃなく、誰でも知っているような大御所の一柱を! ハハッ! 本当に君は最高だよ! ハハハッ!」

 

 何が面白いのか、腹を抱えて大笑いするドレス。しかし他の門番は全く笑えるような話ではない。

 すかさず横に立つ赤い髪の女性門番が声を荒げる。

 

「ふざけないで! 今の話の何が面白いのよ!? エア様! そこにいるランク外が全部悪いなら、今すぐこの私がこいつを叩き斬るわ! それでなんとか許して貰えないの!?」

『関係ない。むしろヴァーサスはこの世界を守ったと言える。神である私たちがあの門を使えば、その時に発生する力の流出は宇宙全体に極大崩壊カタストロフを呼ぶ。もしあのときヴァルナが門を通っていれば、そこで私たちはみんな消えていた』

「そ、そんな……じゃあ、神様はみんな……私たちを見捨てたっていうの……?」

 

 一度は抜きかけた刃をがっくりと力なく垂れ、愕然とした表情で呟く赤髪の少女。
 しかしその時、静まりかえったホールに大きな声が響き渡った。

 

「なーに、気にするな! たとえ神が何人来ようと、俺は俺の門を守り抜く! なあリドル。その神々とやらは誰一人として君の門の通行許可を得ていないのだろう?」

「え……ええ。まあ、そうですね。誰からもお手紙とか、事前連絡とかそういうのは頂いてないですよ。はい」

「そうか! ならば今言った通りだ。ヴァルナは許可無く門を通ろうとしたので二度に渡る警告の上、やむを得ず切り捨てた。今度もまた同じように来るというのであれば、俺はまた同様に切り捨てる。たとえ相手が神だろうと、何人で来ようともだ!」

 

 腕を組み、燃えるような瞳をエアに向け、一切の迷い無く宣言するヴァーサス。

 静謐な空間に響くヴァーサスの言葉は、その場にいた門番全員の心にプラスマイナスそれぞれの影響を与える。

 

「ば、馬鹿なのっ!? アンタがどれくらい強いのか知らないけど、大勢の神様相手にして無事で済むわけ無いじゃない! やるならアンタ一人で……っ!」

「ヴァーッハッハッハ! 気に入ったぞ小僧ッ! 一目見た時からただ者ではないと思っていたが、まさかこれほどとはな! まるでクルセイダスが目の前に蘇ったかと思ったわ! いいだろう。このウォン・ウー、貴様と共に並び立ち、神相手に一世一代の大戦おおいくさに挑むとしよう! ヴァッハッハッハ!」

「……アブソリュートの整備なら万全だ。ヴァーサス」

「あら……ヴァーサスさんったら、少し見ない間にこんなにも立派になられていたんですね……あの件についてはまだ色々とお話がありますが、貴方が行くと仰るならば、私もお供させて頂きます」

「さすがです師匠! このミズハ・スイレン。師匠の一番弟子として、どこまでもついて行きます!」

「ははっ! 懐かしいね。昔はこうして二人で何度も邪神と闘ったことを思い出すよ。僕に黙って一人でそんな楽しいことをしていたなんて、抜け駆けもいいところさ。ここからはこの僕も、また一緒に闘わせて貰うよ!」

 

 気勢を上げ、ヴァーサスの周りへと並び立つ門番達。
 しかし好意的な反応を示す者もいれば、それを苦々しく思う者もいる――。

 

「チッ……神だとか世界が滅びるだとかに興味はねぇ……どうせまた自力じゃなにもできねぇクソ共が泣きわめいて俺たちに縋り付いてくるんだろうがよ? やるならお前らで勝手にやりな」

「うう……ほんっとーにごめんなさい! 無理です! 怖いんです! 神様とか私じゃ絶対無理っ! それに、皆さんももう当然知ってますよね? 私、もうすぐ初の大陸縦断ツアーなんです! 歌の収録もあるし、王様達とのパーティーにも出席しなきゃだし、スケジュールがすっごくキツキツで……やっぱりどう考えても無理! パスです!」

 

 荘厳な大理石の神殿に唾を吐き、下らんとばかりに背を向ける門番ランク最下位のヘルズガルド。そして煌びやかで露出度の高い衣装を身に纏うランク4、アイドル門番の頂点メルト・ハートストーン。

 二人はヴァーサスを囲む輪に入らず、各々の事情を口にする。

 そして、そのどちらもせずに困惑の表情を浮かべる残されたランク6。
 先ほどドレスやヴァーサスに食ってかかった少女、カムイ・ココロ。

 

「カムイ、君はどうするんだい?」

「む、無理でしょ……? 神様とか、私だって見たことあるし、邪神だって闘ったことあるけど、死ぬかと思ったし……どう考えたって勝てるわけ……」

「なら、君は欠席――」

「行く! 行くわよ! 行けばいいんでしょ行けば!? もうどうなっても知らないからね!?」

 

 カムイは土壇場でヴァーサスを中心とした輪に飛び込むと、ぶつくさと色々言いながらもドレスの隣にすかさず滑り込んだ。

 

『話はまとまった……? 私はとても困ってるけど、どうせなら皆を助けたい。私にも出来ることがあれば手伝わせて……』

「ありがとう、エア」

 

 その光景を黙って見つめていた女神エアが静かに口を開く。
 エアの表情は先ほどと変わらぬ無表情だったが、その声にはどこか嬉しさが滲んでいた。

 

『もうすぐここに来る他のみんなの目的は、門を通ること……一人でも門を通ったらこの世界は終わり……みんなで守ろうね。わっしょい……!』

 

 女神エアはその細く小さな手を精一杯天に突き上げ「おー」と一人で声を上げた――。

 

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