最強の門番
最強の門番

最強の門番

 

 全殺しの槍キルゼムオール全殺しの剣スレイゼムオール
 
 全反射の盾オールリフレクター全防御の盾オールディフェンダー

 これら、まるでそれぞれが対になるかのように存在する四つの武具――。

 だがしかし、この四つ全てがこうして一つの戦場で相まみえることは、この世界の歴史上のみならず、あらゆる平行次元においてもかつて成されることはなかった。

 

 起こりえたあらゆる可能性の先――。

 

 世界最強の門番ドレスと、ただひたすらに強いだけの門番ヴァーサス。

 この二人の戦いが持つ意味は、二人が想像するよりも遙かに重く、そして避けられないものだったのだ。

 

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『門番皇帝ドレス・ゲートキーパー』
 種族:人間 
 レベル:8730
 特徴:
 大陸最大の軍事国家デイガロス帝国皇帝にして最強の門番。
 ヴァーサスの持つ武具と対になる全殺しの剣スレイゼムオール全防御の盾オールディフェンダーの所持者。
 身体能力はヴァーサスと互角。所持する武具も互角の絶対門番。
 門番戦争では十万の軍勢を単独で撃破し、十を超える邪神を討伐した。
 
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「行くぞドレス! リドルをこれ以上傷つけることはこの俺が許さん!」

「さぁ闘おうヴァーサス! 七年前の決着、今ここで着けてあげるよ!」

 

 ヴァーサスとドレス。紅蓮と純白の色を纏った二つの最強が同時に消える。

 瞬間、衝撃は遙か上空から発生した。

 ドレスの斬撃によって天井部分が解放された室内の直上から、瞬きほどの一瞬で千を超える閃光の華が咲いた。

 それはヴァーサスとドレス双方の凄絶な斬撃と刺突の交錯。

 その全てが僅かでも掠るだけで存在ごと消滅する因果の一撃。

 二人が動いてから三秒が経過。

 その僅か三秒の間に、二人は万にも達する生命の奪い合いを試みていた。

 

「はあああああああッ!」

 

 ヴァーサスが仕掛ける。
 かつてリドルと出会ってから今まで、一度も放つことのなかった最強最速の一撃。

 しかしドレスはそれをギリギリのところで弾き、自らの盾をヴァーサスへと叩きつける。
 ヴァーサスはその盾に向かって肩口から突っ込むと、甲冑の曲面を利用してドレスの盾の上方へと滑るように回転。回転の終わり際に痛烈な回し蹴りをがら空きとなったドレスの背中へと叩き込む。

 だがドレスはそれすら回避した。

 空中で制御不能なはずの体を素早く横回転させ、ヴァーサスの縦方向の蹴りをわずか数ミリという間隔で躱しきる。

 回避と同時、ドレスはヴァーサスの攻撃を躱した勢いそのままにあらゆるものを切り裂く横切り一閃。この一撃を食らえばヴァーサスは死ぬ。

 しかしヴァーサスはこの瞬間を待っていた。

 即座に全反射の盾オールリフレクターを掲げ、全殺しの剣スレイゼムオールによる因果破壊の一撃を反射する。この至近距離、いかなドレスとて回避は不可能。

 

「それでこそだヴァーサス!」

 

 ドレスが叫ぶ。

 閃光と共に掲げられたドレスの盾――全防御の盾オールディフェンダーが残された僅かなタイミングで反射された攻撃とドレスの間に割り込み、致命の一撃を文字通り防御した。

 瞬間、ヴァーサスとドレスを中心として大地を、世界を、宇宙そのものを震わせる震動が発生する。

 

「今のは危なかったよ! どうやら成長したのは僕だけじゃなかったようだね!」

「ドレス! 貴様は絶対に許さん!」

 

 その震動は間近でも立っていられないという強さの揺れではなかったが、実はその震動ははるか無限の果て、宇宙の果てを越えた先にすら届いていた。

 

「……っ! これ……次元震……? ただの人間が……そんなものを起こせるんですか……?」

 

 その不気味に響き渡る震動に信じられないという顔を見せるリドル。

 震動の発生源は二人が持つ四つの武具だ。

 物理法則すら越えて原因と結果を即座に攻撃、もしくは防ぐその四つの武具は、各々が独自の支配領域を持っている。

 いざ戦闘となれば、武具は攻撃の対象を自らの領域内へと引きずり込み、それによって定められた結果を現実世界に導き出しているのだ。

 だが、それぞれ全く互角の力を持った武具どうしがぶつかり合ったときその領域は激しく拮抗し、食い合いを始める。

 その領域の食い合いこそが、この震動の根源だった。

 

「もしかして……このままじゃ門とかうんぬんじゃなくこの世界がまずいのでは……あの二人を、止めないといけないんじゃ……」

「ギギギッ! どーこ見てるデスッ!」

「くっ! リドルさん、こっちへ!」

 

 あまりにも凄絶な二人の戦いに気を取られていたが、すでにリドルの間近ではミズハとクロテンの死闘も始まっていた。

 クロテンの嵐のような攻撃を捌ききれず、徐々に傷を負い始めたミズハはその細腕でリドルを軽々と脇に抱えると、一度の跳躍で室内中央の巨大な装置横へと運ぶ。

 四方八方から襲ってくるクロテンからリドルを守りやすくするために、自ら壁際へと下がったのだ。

 

「すみませんミズハさん……! 私……こんなときになんのお役にも立てなくて……っ!」

「そんなことないですよ! 役に立つとか立たないとかじゃないです。師匠に言われてなくても、私は絶対にリドルさんを守って見せます!」

「逃がさないです。大人しく死ぬデス!」

 

 距離を取った二人に迫るクロテン。

 クロテンは地面すれすれを這うような姿勢となって加速すると、上下左右、四方向から短剣を投げつけて攪乱。クロテン自身は空中に飛びかかり、ミズハの背後のリドルを狙う。

 

「四の太刀――鳳仙花!」

「ギギッ!?」

 

 ミズハが抜き放った二刀が互い違いに大きく円を描いた。

 その美しい軌道は、四方向から投げられた短剣全てを同時に叩き落し、さらにリドルに向かって跳躍していたクロテンすら吹き飛ばす。

 

「私が健在なのにリドルさんを傷つけられるとお思いですか!? 甘く見ないで下さい!」

「ギギギ……ッ! ただの雑魚門番じゃねーのか……です」

 

 リドルは自分を守るように大きく二刀を広げる小さなミズハの背中を見上げた。

 口ではああ言っているが、リドルを守りながらの戦いはミズハに圧倒的な不利をもたらしている。

 既に捌ききれなかったクロテンの攻撃が、ミズハの白い肌にいくつもの裂傷をつけているのだ。

 

「ミズハさん! 私のことはどうか構わず、戦いに集中して……」

「――そういえば、リドルさんのお母様の話……さっき聞いてびっくりしたんです。私も魔王エルシエルの話は良く聞いていましたから――」

「あ……」

 

 リドルを背後に庇い、クロテンの激しい攻撃を防ぎながらミズハが静かに言葉を発した。

 あまりの出来事にすっかり失念していたが、リドルはミズハには自分の出自を教えていなかった。最後まで隠し通して穏便に事を進めるつもりだったのだ。

 

「すみません……黙っていて……それを知られたら、ミズハさんも嫌がるかと思いまして……」

「――謝らないでください。私はただ……リドルさんって本当に凄いなって思ったんです。もし私がリドルさんの立場だったら、きっと何も出来なくて泣いちゃってました!」

「ミズハさん……」

「よそ見とかおしゃべりとか許せねーデス。舐めてんのはそっちじゃねーですか!」

「くっ! 守勢の型――!」

 

 全体重を乗せたクロテン渾身の一撃。

 ミズハは僅かに顔をしかめつつもその攻撃を受け止め、そのまま斜め後方へと正確な動きでクロテンを逸らしきる。

 かつて単独で戦い、敗北したバダムと同等――もしくは上回るであろうクロテンの攻撃は、たとえリドルがいなかったとしても今のミズハが勝てるかどうかは五分五分だった。

 

「ミズハさんっ! 本当に私のことはっ!」

「――私、リドルさんのこと好きです。師匠とは違う部分で素敵な人だなって、リドルさんみたいな女性になりたいって思ってます。まだ知り合ってから短い間ですけど――私、師匠とリドルさんがいるあの場所が大好きなんです。だからお願いです。見捨てて欲しいなんて言わないでください。私にも――貴方を守らせて欲しいんです!」

 

 ミズハは振り返らず、相対するクロテンをまっすぐに見据えたままそう言うと、死線を共に戦い抜いてきた愛刀――双蓮華そうれんげを、上下天地へと向けて構える。

 

「私の名はミズハ・スイレン。この人を守る門番です。貴方の主と同様、貴方にもこの方を傷つける許可は下りていません。それでも攻撃を止めないというのなら、師匠に代わってこの私が……貴方をここで切って捨てます!」

「ギギギ……! やってミロデスッ! そのよわっちい腕でできるもんならなッ!」

 

 クロテンが漆黒の風と化して二人へと襲いかかる。

 ミズハは刹那の黙想。

 瞳を閉じ、呼吸を整え――。

 見開くと同時に刃を振った――。

 

 

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