納得する門番
納得する門番

納得する門番

 

「……はい。これでいいですよ」

「……反省している」

 

 門の横に建つ小さな家。
 中からリドルとヴァーサスの声が聞こえてくる。

 

 時刻は夕暮れ時。
 レイランド卿の屋敷前でバダムを討伐してから一日以上が経過していた。

 

「あんなのヴァーサスが本気で闘えばすぐだったじゃないですか。どうしてこんな無茶なことしたんです」

 

 丁度鎖骨から胸の中央にかけてつけられたヴァーサスの傷口に、消毒作用のある薬草をすり潰したものを塗り、その上から厚手の包帯を巻いていくリドル。

 リドルの声は落ち着いていたが、その奥には明らかに憤りの色が見えた。
 治療をするために傷口へと目を向ける度、リドルの瞳が悲痛に歪む。

 

「ミズハに手柄を立てさせてやりたかった……あそこで彼女が突っ込んでこなければ、まだやりようもあったのだが……」

「それでヴァーサスが死んだら私の門は誰が守るんですか……今回はまだこうして生きてましたけど……そこのところ、もうちょっと自覚してください」

「その通りだ。本当にすまなかった」

「本当の本当にそうです! いきなり目の前で血まみれになられるこっちの身にもなって下さい……」

「もう二度とこのようなことはしないと約束する」

「……わかりました。許してあげます」

 

 深々と神妙な面持ちで頭を下げるヴァーサス。
 リドルは大きなため息をつくと、手当の終わったヴァーサスに薬効のある茶を入れたカップを手渡した。

 

『さて、次は連続門番殺人の犯人を見事討伐したという我らが門番、ミズハ・スイレンのニュースです!』

「おお? これはもしや俺たちの話なのではないか? 便利なものだな!」

「でしょうね……内容は大体予想できますけども」

 

 その時、先ほどから興味の無い内容を流し続けていた配信石から見知った単語と映像が流れてくる。
 今まで配信石はリドルの家にはなかったのだが、先日やってきたクレストが参考になればと無償で提供してくれたのだ。

 

『ではミズハさん、今回の相手はいかがでしたか! 手強い相手だったのでは?』

『はい……とても手強い相手でした……私一人では……』

『そういえば今回はもう一人門番がいたと聞いております! 見事な連携で追い詰め、最後はミズハさんが一刀のもとに斬り伏せたとか!』

『いえっ! 私は、私はなにも――っ』

『ああー! オホンウホン! その通りだ、今回の討伐作戦は二人の門番のうち片方が犯人の注意を引きつけ、隙をみせたところをミズハが一太刀の元に切り伏せる! そういう作戦であった! 見事狙い通りというわけだな』

『おお、レイランド卿! 流石はミズハさんのような優秀で素晴らしい門番を手元に置かれているだけのことはあります! もしや、今回の作戦はレイランド卿が
……?』

『クフフ……何を隠そうその通りだ。ミズハはともかく、もう一人の門番はまだまだ未熟な半人前だったのでな。二人の力量を正確に見極めた上で、この私が作戦の指揮を執った。こうしてナーリッジを脅かす邪悪な輩を排除できて本当に嬉しいと思っている! 今後より一層ナーリッジのために身を粉にして貢献――』

 

 そこで配信石の輝きは消えた。
 配信石に魔力を供給するシートをリドルが外したのだ。

 

「思った通り、意味のない内容でした!」

「街に平和が戻ったのなら喜ばしいことだ! 賑やかなのも素晴らしい!」

「何言ってるんですか! 私は全然納得いきませんよ! あの配信をきっかけに、ヴァーサスの人気が大陸中でうなぎ登りになる可能性だってあったんです! ぐぬぬぬ!」

 

 あまりの悔しさにぷるぷると震えて天井を見上げ、今にも配信石を窓から投げ捨てそうな勢いのリドル。

 だがヴァーサスはそんなリドルに微笑むと、手の中のカップに口をつけた。

 

「俺は門番になりたいのだ。そして、その夢はもう君のおかげで叶っている。他に望むものなどない」

「あなたはそうかもですけど、私はヴァーサスが他の人から凄いって言われたり、思われたりしたら嬉しいですよ……今回だって、こんな大怪我までして頑張ったのに……」

「それはその通りだ。だが――」

 

 ヴァーサスはベッドに半身を預けながら、窓の外に広がる光景へと目を向ける。

 

「街の人々にとって門番は希望なのだ。強く頼れる門番が自分たちの身近にいるという安心感は、人々の心に明るさとゆとりを与える。頼れる門番たちが大勢倒されて不安になっている今のナーリッジに希望を与えるには、どこの誰とも知れぬ俺が活躍するよりも、ミズハが活躍した方が良いと思ってな」

「はぁ……本当にヴァーサスって門番バカなんですね……」

「はっはっは! 門番については誰にも負けない自信があるからな!」

 

 そんなヴァーサスの様子を見て、リドルは呆れたように首を力なく振る。
 そしてそのまま何食わぬ顔で隣に座ると、その赤い瞳でヴァーサスを見つめた。

 

「……どうした?」

「見てるんです」

「なにをだ?」

「あなたの活躍を」

 

 二人が座る古ぼけたベッドが軋み、渇いた音を立てた。

 リドルはそのままゆっくりと、ヴァーサスを真っ直ぐに見つめたまま顔を近づけていく。

 

「しょうがないので、これからも見ることにします。あなたの活躍は……私がずっと見てますから。ひとまず、それでいいことにします――」

「リドル……」

 

 柔らかな光の中、二人の影がほとんど重なり、お互いの唇が一つになる――と、思われたその瞬間。

 

「す、すみません! お邪魔します!」

「ぴえっ!」

 

 突如としてかけられた声に二人は、というよりもリドルは光速で離れ飛んだ。

 見れば、僅かに開いたドアの隙間から顔を真っ赤にしたクレストが申し訳なさそうにこちらを覗き込んでいた。

  

「く、く、く、クレスト君!? いつのまにそこに!?」

「あわわ……ほ、本当にすみません! 見てるとか見てないとか言ってるときから……」

「うひゃあ! 殆ど最初からじゃないですか! なしなし! 今のなしです! 忘れてください! 忘れてくださいー!」

 

 叫びながら室内を走り回るリドルに困惑するヴァーサスとクレスト。

 錯乱したリドルに代わってクレストからの謝礼と父であるレイランド卿の振る舞いについての謝罪を受け取ったヴァーサスは、気にしていないと笑顔で伝え、そのまま三人で夕食を共にしたのであった――。

 

 

『門番VS戦士バダム ○門番 ●戦士バダム 決まり手:ミズハの桜……………

 実は████████、████は███████████████。
 ████を██████り、████████████する。
 実は████████、████は███████████████。
 ████を██████り、████████████する。
 実は████████、████は███████████████。
 ████を██████り、████████████する。

 

 しかしそれから丁度一週間の後。

 ナーリッジの門番は再び襲われたのである――。

 

 

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