引き受ける門番
引き受ける門番

引き受ける門番

 

「門番連続殺人事件だと?」

 

 いつもより日差しの勢いが強い午前半ば。
 ヴァーサスとリドルの二人が暮らす家の中から驚きの声が上がった。

 

「は、はい。実は最近ナーリッジの門番が夜中に襲われるという事件が何度も起こってて……」

「それは穏やかではありませんね……クレスト君はお砂糖どうしますか?」

「僕は二杯――あ、いえ、お砂糖は結構です。ありがとうございます」

「そうですか? はい、まだ熱いのでお気をつけて」

 

 リドルが差し出したカップを緊張の面持ちで受け取ったのは、まだ子供といって差し支えないような外見の少年。
 クレストと呼ばれた金髪の少年は、丁寧にしつらえられた黒い礼装に蝶ネクタイを着けており、その振る舞いからは育ちの良さが自然とにじみ出ている。

 

「しかしそんな事件が起こっているというのに、ナーリッジの門番はなにをやっているのだ? 彼らも門番だ。自分の身を守る術は当然心得ているだろう」

「ですねぇ……ナーリッジはかなり栄えてますから、門番の競争率もとても高いんですよ。ヴァーサスも落ちてましたし」

「うぐっ! 今思い出してもあの試験の数々は厳しい戦いだった……」

「お二人の言う通り、初めのうちはナーリッジの貴族たちもすぐにどこかの門番が犯人を倒してしまうだろうと考えていました。でも犠牲者は増え続けました。犯人は執拗に門番を狙い、警備の兵士たちを増やしたり、協力関係にある貴族同士の門番が手を組んだりと色々したようなんですけど、今も事件は続いています」

 

 クレストはそう言うと、不安と若干の恐怖を宿した灰色の瞳で二人を見た。
 その様はまるで怯える子犬のようであり、なんとかしてやりたいという気持ちを沸き立たせてくる。

 

「そうか……そこでこの俺にその犯人をなんとかして欲しいとやってきたのだな……任せておけ!」

「い、いえ……僕はヴァーサスさんのことは全然知らなくて……でも、その……リドルさんはいつも皆さんが困っていると色々やってくれていたので、つい相談してしまったら、ここに……」

「フッフッフ……私は街でもなかなかの有名人ですからね! もちろん私も事件のことは小耳に挟んでいましたし、クレスト君が来なくてもそのうち二人で解決しに行ったと思いますよ。実際のところヴァーサスなら楽勝だと思いますし」

「油断はできん。俺も町中でしか見てはいないが、ナーリッジの門番たちも日夜修練を積んでいる強者であることはすぐにわかった。彼らでも止められないというのならば、きっと恐るべき相手に違いない!」

「心強いです! 実はもうナーリッジの門番もほとんどがやられてしまって……後は僕の家で門番をして頂いているミズハさんしか残っていないんです……彼女までやられてしまったら、ナーリッジは……」

「最悪の場合、ナーリッジは今の貿易都市っていう看板を維持できなくなるかもしれませんね。門番のいない街なんて怖くて商売も成り立ちませんし」

 

 追い詰められた現実に、不安で顔を曇らせるクレスト。
 ヴァーサスはリドルと互いに頷き合うと、俯くクレストの肩に力強く手を置いた。

 

「心配するな。君が俺たちのところに来たのは正解だった。人々の希望である門番を狙うその不届き者は、このヴァーサスが必ず倒して見せる!」

「ですです! こう見えてヴァーサスは私の自慢の門番様なんですよ。ちょっと熱すぎて暴走するところもありますが、こと荒事に関しては安心して頂いて大丈夫です。この前なんて神様もボコボコにしたくらいなんですから!」

「自慢の、門番様……」
 

 

 クレストを安心させるように笑みを浮かべる二人。
 だがなぜかクレストの顔はその二人の様子を見てさらに曇る一方だった。

 

「どうしました? まだ他にも何か心配ごとがおありですか?」

「そ、その、リドルさんとヴァーサスさんは……」

 

 目線の高さをクレストに合わせ、覗き込むようにして見つめるリドル。
 そんなリドルの様子にクレストは思わず顔を赤くしながらも、めげずに強い意志を持って口を開いた。

 

「――お二人は、いったいどういう関係なんですか!?」

 

 

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