約束を守り続ける門番
約束を守り続ける門番

約束を守り続ける門番

 

「うおおおおおお! クルセイダスーーーー! ウォン殿おおおおお!」

「ヴァーハッハッハ! ヴァーサスよ、貴様酒に弱いと言っていたが、まさか泣き上戸とはな!」

「そんなことはない! 俺はウォン殿の話を聞いてこうなっているのだ! 俺は何も知らなかった! まさか、俺が憧れたクルセイダスとウォン殿の間にそのようなことがあったとは! うおおおおお!」

 

 ウォンの話が終わる頃。辺りは既に日が暮れていた。

 空になった酒瓶が何本もテーブルの上に置かれ、途中リドルが作ってくれた料理の皿もすでに殆どが平らげられている。

 ヴァーサスは滝のような涙を流してウォンに抱きついていた。先ほどまでの話を聞き、酔いが回っていたのもあるが、素直に心をメタメタにやられていた。心の底から感動していた。

 

「いやはや……ヴァーサスの言うとおりですよ、私もほんの僅かに致命的な一撃で涙腺をやられてしまいました……うぅ……」

「そ、そうだな……ウォンよ、お前もなかなかどうして大変だったようではないか……」

「ヴァッハッハ! それを言うならば俺も驚いたぞ、まさか貴様ら二人がクルセイダスとエルシエルの娘だったとはな。道理で面影があるわけだ!」

 

 リドルと黒姫も目を潤ませ、ちびちびとカップに口をつけていた。リドルはハンドタオルで涙を拭い、黒姫は優雅にワイングラスを構えてはいるが、うんうんとなにかを噛みしめるようにして頷いていた。

 リドルと黒姫には、今のウォンの話で納得する部分が大いにあった。

 黒姫がかねてより気づいていた『大門番時代』という、この次元でしか発生していない事象。それもやはり、クルセイダスとエルシエルが狙って導き出した特異点だったのだ。

 クルセイダスが英雄となり、次元最強生物のウォンがその後を継ぐ。全ての人々の願いと希望が門番という存在に集積し、門番という概念の周囲でのみ、他の次元では発生し得ないような特異な事象が頻発するように仕向けた。

 そしてその結果として生まれたのが、現在の上位門番に相当する神をも屠り去る強者達――――。

 クルセイダスとエルシエルは、自分達が去った後のこの世界を、ウォンに、ヴァーサスに、そして集積したエントロピーの先に誕生するであろう、新たな門番達に託した

 ヴァーサスがそうであったように、門番皇帝ドレスも、ダストベリーも、メルトも、シオンも、カムイもミズハも。今この世界に存在するあらゆる門番達は、その全員がクルセイダスとエルシエルが生み出した門番概念から発生した、新たな特異点だったのだ。

 しかしウォンだけは違う。

 全ての門番の中でウォンだけは唯一、本来の因果の定めで誕生することを宿命づけられた次元最強の男だった。故に、クルセイダスはウォンの友となり、その協力を求めたのだろう。

 

「――――結局、全てあいつらの言った通りになった。わけのわからぬ敵が現れることも増えたが、同じように俺をも上回るやもしれぬ強者達が続々と俺の後に続いた。これがどれほどの喜びかわかるか?」

「うむ! 俺もドレスやダストベリーと初めて相対したときは胸が躍った! こんな力を持った相手がこの世界に居るのかとワクワクした!」

「ヴァッハハハ! その通りだヴァーサスよ! 一人の最強などつまらん。自らに並び立つ強者と日々腕を競い。今は力及ばずとも、やがて自身をも越える強さを持つであろう者達の成長を見る。そしてそのどちらに対しても正面から相対し、自身の最強を示し続けることこそ至上の喜びよッ! ヴァーハッハッハ!」

「たはは……二人してバトル脳の極地みたいな話してますよ……」

「クククッ! その戦、私も参戦しても良いのだぞッ!」

「黒姫さんはここで大人しくフライドポテト食べてて下さい!」

 

 すっかり目を輝かせてウォンを見るヴァーサスに、満足そうな笑みを浮かべて酒を飲み干していくウォン。ヴァーサスを見つめるウォンのその表情は、まるで孫を見る祖父か、息子を見る父親のようですらあった。

 ――――いや、実際にそうなのであろう。

 ウォンにとっても、クルセイダスにとっても、エルシエルにとっても。今この世界を守り続ける因果へと到達する道を切り開いた三人にとって、ヴァーサスは勿論、全ての門番達が子供のようなものだった。

 その成果をこうして見ることの出来るウォンの心境は果たしていかなるものか。その満足げな笑みを見れば、全て察することが出来た。

 

「あ、でも一つ聞きたかったんですけど、父と母はウォンさんに後を託したって、具体的にはどんなことが起こるって言ってたんですか? それってつまり、これから先に大変なことが起こるからウォンさんにお願いしたんですよね?」

「そうだな…………それならばまずは先の話でも出た異界からの使徒。恐らくあの一派が貴様らの父と母が最も警戒していた相手だ。エルシエルは貴奴らのことを反転する意志と呼んでいた」

「反転する……意志……」

 

 リドルが尋ねた懸念点。それに対するウォンの言葉に、リドルと黒姫の脳裏にかつて見た光景が蘇る。反転者リバーサーと呼ばれた男と、父と母の最後の戦い――――。

 二人は反転者リバーサーのことを何も知らない。あの男の目的も、一人なのか複数なのか。一体どのような力を持っていて、なぜあの場で倒すことができたのかも。

「俺もそこまで詳しいわけではないが、奴らの目的は以前神共が通ろうと画策したこの門の破壊だと聞いている。しかし結局、俺が奴らと相まみえたのは先の話の時のみだったな」

「門の破壊……なんでそんなことを……大体、そんなことしたら……」

「門を破壊すれば、一つの概念として固定されている門の力が形を失って無限に広がり、その世界は滅びる。私はそのようにして滅びる世界を無数に見てきた。 ――――もしやとは思うが、まさか他の次元での門の崩壊も、奴らが?」

「さあな。それ以上は俺にわからん。しかしクルセイダスはこうも言っていたぞ。『反転する意志は倒せても、そのために払った代償は必ずこの世界に降りかかる』とな。ほれ、以前倒したあの赤子の神のような奴らもその代償なのではないか? おかげで、俺は退屈せずに済んでいるがな! ヴァッハハハハ!」

「たとえ何が来ようとも、この世界は俺たち門番が絶対に守り抜いてみせる! クルセイダスとリドルと黒リドルの母上、そしてウォン殿が守ったこの世界を傷つけることは、俺には許容できない!」

 

 そう言って気勢を上げるヴァーサス。ウォンは目を細め、ヴァーサスのその姿を見つめた。二人のリドルは僅かに不安そうな表情を浮かべたが、あの名も無き神すら打倒したこの世界の門番達を突破して何事かを成すのは、到底不可能に近いように思えた。そして勿論――――。

 

「クックック! 何を隠そう、この私もすでに門番試験満点となった身。貴様ら二人だけには任せて置けぬ! この黒姫もこの世界を守るため、門番黒姫として共に戦ってやろうではないか!」

「そういえばそうだった! ならば同じく試験で満点のギガンテスも門番ということになるのか!? 皆門番だな! ハッハッハ!」

「いえいえ、集積したエントロピーや因果というのは以外と脆いものなんですよ。ここはあえて門番ではない宅配業者のこの私も! 不確定要素として頑張らせて頂きますよ!」

「ならば俺もリドルの夫として、立派に勤めを果たすつもりだ!」

「ならばならば! 私もヴァーサスの妻としてッ!」

「ヴァーサスの妻は私ですからーっ!」

 

 ヴァーサスを中心に、何が何でもこの世界を守る意志を固める三人。
 
 そんな三人を眺めるウォンは穏やかな笑みを浮かべ、そのままその太い首を傾けて頭上の夜空へと視線を向けた――――。

 

「(――――見ているかクルセイダス。これが、お前の守った世界だ――――)」

 

 満天の星空の向こう――――。

 今はもう居ない友にそう呼びかけると、ウォンは静かに手に持った杯を夜空に掲げ、一息に飲み干すのであった――――。

 

 

 

『門番 VS 使徒 門番○ 使徒● 決まり手:武装領域――因果破砕の拳』

 

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