写真を飾る門番
写真を飾る門番

写真を飾る門番

 

「――――というわけで、一時は本当にどうなることかと思いましたよ!」

「あわわ……そんな大変なことになってたんですね……」

 

 大きな森の中に佇む小屋。

 最早馴染みとなった、門の横に建てられたリドルとヴァーサスの住む家の中から、明るい話し声が聞こえてくる。

 

「配信石でダイタニック号に事故があったって見たときは凄く心配したんです。師匠とリドルさんなら大丈夫だって思ってはいたんですけど……」

「しかしそんな酷い目にあったというのに随分と嬉しそうではないか。あー……待て待て、言わなくて良い……どうせヴァーサスと二人だったから楽しかったです! とか思っておるのだろうッ!? 許さんぞ白姫ッ!」

「たははは! さすが黒姫さん、仰る通りです! でもでも、それだけじゃないんですよ――」

 

 リドルからダイタニック号での話を聞き、心配そうな表情を浮かべるミズハ。椅子では無くベッドに深々と腰掛けている黒姫は、なにやら一人で推理し、一人で盛り上がっている。

 ――――結局、ダイタニック号は沈没せず、無事にその最初の航海を終えた。

 リドルとヴァーサスは一つ目の入港地点であるニューエデンで下船したが、乗客はもとより、共に沈没の脅威に立ち向かった乗組員やサービススタッフたちも皆、二人を盛大に見送ってくれた。

 

『ウリィィィィ! なんだこの日焼け止めクリームは! 紫外線カット率が低いではないか! このジオを焼き殺すつもりかッ!』

『メルト君……我が輩、今回は大人しく引き下がるが……我が輩は君を諦めるつもりはないぞ。此度君からこの那由多面相が盗んだもの……それは君の心なのだ!』

 

 吸血鬼ジオと怪盗那由多面相はそう言いながら、デイガロス帝国から派遣された皇帝直属の特殊捕縛騎士団によって連行されていった。

 既にヴァーサスからドレスへ二人のサメ討伐戦協力の件は伝わっており、ドレスからも二人を悪いようにはしないとの返答を得ていた。彼らはこの後、帝国の領内で実にドレスらしい裁量の元でその罪を償っていくことになるが、それはまた別の話だ。

 

「ヴァーサスさん、リドルさん。今回はとってもお世話になりました! せっかくの新婚旅行をお邪魔してすみませんっ!」

「礼を言うのはこちらの方だ。メルト殿のお陰でこうして誰も傷つかずに旅を終えることが出来た。感謝する!」

「ですです! 多分、私たち二人でもあのサメをなんとかするのは出来たかもですけど、船までは助けられなかったと思うんです……。そうなったら怪我をしたり、死んでしまう人もいたかもしれません。こうして皆さん無事なのも、私たちの旅行が最高の思い出になったのも、全部メルトさんのおかげですよ。ありがとうございました」

 

 ニューエデンの港で大きな荷物と共に下船した三人。

 既にメルトの後ろには、彼女を迎えに来たエレストラ神聖領域の従者たちが待機していた。実は、メルトは門番であると同時に聖域の聖女でもある。彼女のアイドル門番としての活動や戦場での戦いも、全ては聖域の神官たちの意向によるものだった。

 

「私の方こそ、お二人とお友達になれてほんっとうに良かったです! 人間ってこんなにお互いを信じ合って、深く繋がることができるんだって、お二人を見てて思ったんです。とっても元気もらいましたっ!」

「それなら良かった! 俺も君の歌声に元気をもらった! いつかまた、あの素晴らしい歌を聴かせてくれると嬉しい!」

「いつでも遊びに来て下さいね。聖域に行くのはちょっと難しいかもですけど、お茶くらいは出せますので!」

「あ! それなら配信石の石番号教えて下さいよ! 石友になればいつでもお話できるじゃないですか! これからもいっぱい相談とかさせて貰えると嬉しいです!」

「そうしましょう! これからも遠慮せず、色々お話してくださいね!」

 

 ――こうして、リドルとヴァーサスはメルトとプライベート石番号を交換し、石友になった。これもまた、他の平行世界では繋がることの無かった貴重な縁だった――。

 

「――え!? じゃあもしかしてリドルさん、メルトさんの番号ご存じなんですか?」

「そうなんですよ! でもメルトさんの私的な石番号が万が一漏洩でもしたら本当に大ごとなので、きっちり私の純白の脳細胞の中にだけ記憶しております!」

「すごいですリドルさん!」

「たしかに、どんな体の不調も治し、生命エネルギーを消耗させるのでは無く、純粋に増加させるだけというそのメルトとやらの歌には興味がある……今度は私も連れて行くのだ! ヴァーサスと私の新婚旅行の時に立ち寄っても良いな!」

「おお、なにやら盛り上がっているようだな! リドル、こっちは全部終わったぞ!」

 

 そんなこんなで話を弾ませる三人。そしてそこに、奥の部屋から大量の荷物を抱えたヴァーサスがやってくる。

 

「ありがとうございます! じゃあ、あとはこれを飾るだけですね!」

「うむ! どれもこれもいい写真ばかりだ!」

「わぁ……凄いですっ! これ、もしかしてダイタニック号の?」

「ほう……!? クククッ! 白姫よ、この写真は貴様が撮ったのか? よくここまでやったものだ!」

 

 ヴァーサスが持ってきたのは、大小様々な額に入れられた写真だった。

 それはリドルとヴァーサスの結婚式の写真から始まり、ダイタニック号での航海中に撮ったメルトとの写真や、吸血鬼ジオと那由多面相と並んで撮影したものまである。ジオは写真の閃光に焼かれて苦悶の表情だが。

 しかし、なによりミズハと黒姫を驚かせたのは、同じような構図で撮られた何枚もの集合写真だった――。

 

「いやはや……船に乗っていた皆さん全員が私たちやメルトさんと写りたいというので、かなり頑張ってしまいました。三万人はさすがに一度には写しきれないので、何度も入れ替わって頂いてですね……」

「うむ! リドルが力を使い、写真機だけふわふわと浮かせて撮ってくれたのだ! 皆とても喜んでいた! 半日ほどかかったがな!」

「クッハハハハ! よくやる! だが、実にお前たちらしいとも言える。良い新婚旅行になったな!」

「素敵ですっ! 私も飾るのお手伝いしますね!」

「助かりますよミズハさん! じゃあ、まずはこれとこれをですね――」

 

 ――その後、全ての写真を飾り終えた二人の家は、一方の壁一面が写真で埋まることになった。

 その半分以上は三万人もの乗客たちと写った集合写真だったが、その写真の中に写る人々の表情は皆笑顔だった――。

 

 ――――本来、彼らの大半は他の平行世界では沈没に巻き込まれ、決してニューエデンへと辿り着くことのなかった命だ。今、彼らはその運命を自ら打ち破り、未来へと進む道を切り開いた。

 リドルとヴァーサスが結ばれたこの今から続く道が、あらゆる次元で到達した者の居ない白紙の未来であるように。この時共にダイタニック号に乗り合わせた大勢の人々の未来もまた、これから描かれる全く新しい世界だった――――。

 

 こうして、二人はそうとは知らず、世界に新しい可能性の未来を生み出していく。

 それはやがて、再び一つの奇跡となって結実するだろう。

 あの日、二人が出会ったあの時と同じように――――。

 

 

『門番 VS 新婚旅行 門番○ 新婚旅行● 決まり手:全員門番』
 

 

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