「へー! アンタがリズの言ってた〝世界一泳ぎが上手い英雄〟だったのか。なんかリズから聞いてたイメージと違うな?」
「すごくよく言われる……」
「しかしリリーよ。まさか貴様、今日の式典にもその格好で出るというのではあるまいな? 聖女の正装はどうしたのだ!?」
甲板でのあれこれのすぐ後。
いきなり出てきた聖女様と話すことになった俺とリズは、そのまま船の上の方……むちゃくちゃ広い、ガラス張りの大きなホールみたいな所に連れてこられた。
あっちこっちに大きなテーブルがあって、その上には白い布。
正面には大きなステージが……って、もしかしてここが会場なのか?
「へへっ! やっぱり私っていったらこの格好だろ? それに、皇帝だの邪悪博士だのが攻めてくるなら動きやすい格好の方がいいじゃないか」
「貴様がそんな格好でさらに愛用のハンマーまで担いでいたら、悪者共も恐怖のあまり誰も襲ってこんであろうが!? 全く……カノアといい貴様といい、なぜどいつもこいつも私の考えた完璧な計画を綺麗さっぱり忘れるのだ!?」
「ごめんなさい」
「なんだ、カノアも私と一緒だったのか? それなら、アンタとは結構気が合うかもしれないな。私もそーいうのはどうも苦手でさ」
俺とリズの少し前を歩く聖女様……リリーアルカさん。
でもさっき俺がそういう風に呼んだら『長いだろ?』て言われたからリリーで。
彼女は小さくて、背の高さは多分ラキよりもちょっと低い。
だぼっとした短い丈の作業着を着てて、服にはめっちゃ汚れがついてる。
それと、そんなに長くない金色の髪を左右二つに括って大きな帽子を被ってる。
首には変な形の眼鏡……じゃなくてゴーグルっていうのかな……そういうのもぶら下げてた。
むぅ……。
なんか、こう……。
ラジオで聞いてた時から思ってたけど……。
〝聖女様〟っていう名前のイメージとは、リリーの雰囲気はかなり違うな……。
それに――。
「なーなー! たまにはリズも私の所に遊びに来てくれよー! お前やラキが来ないと暇なんだよー!」
「むむん……。そうしたいのは山々なのだがな……何度も言った通り、私の魔力はまだ完全に回復してはいないのだ! 故に、ホイホイ貴様の所に行くわけにはいかん! 我慢せよっ!」
「うぇー!? いいじゃんかそんなもん。リズの魔力がからっぽってことは、いつもの〝勝負〟は私の方が圧倒的有利ってことだろ? リズをボコボコにするチャンスじゃないか!」
「だから行かんのだこのバトル脳聖女め! せっかくカノアのお陰で回復してきた我が力……貴様との不毛な争いで消耗する気はさらさらないのだっ!」
「めちゃくちゃ仲良しだ」
いや本当に。
ずっと仲が悪かった魔族と人間……その一番偉い人同士のはずなのに。
それなのに、目の前の二人はびっくりするくらい仲良しだった。
「そーだろ? リズとは子供の頃からの付き合いなんだ。他の奴らは今も知らないけど、ずっと昔にリズの方からこっそり私に〝手紙〟をくれてさ」
「うむうむ……! あれはまだ私が五歳の頃であった……。大魔王の座を継いだ私は、人と魔の戦いを終わらせるため、まずは人間共の頂点であるリリーと友達になろうと考えたのだ……! クックック……どうだ、名案であろう!?」
「なんかかわいい」
「その頃の私には友達とか一人もいなかったし、自分で言うのもなんだけど結構〝荒れてた〟んだよ。だから、私にとってはリズが初めての友達ってことになるな」
「私にとっても似たようなものだ……。まあ、私もまさか人間共の頂点である聖女が、このようなバトル脳のガテン系とは思っても見なかったのだがな!?」
「ガテン系」
「へへ、まーな!」
バトル脳でガテン系……。
どっちもよく分からないけど、とにかくリリーもリズと同じで〝ドンッ!〟って来るタイプの人なのは分かってきたぞ……。
見た目も雰囲気も違うけど、この二人ってなんか似てるな……。
「それはそうと、リズや皆を助けてくれたお礼がまだだったな。正直、私の力だけじゃ今生きてる奴らの半分も助けられなかったと思う。アンタのお陰だ、ありがとな!」
「いや……それは本当にたまたまで……。リズにも言ったんだけど……」
「ははっ! そんなこと言ったら、私やリズに聖女や大魔王の力があるのだってたまたまだろ? そのたまたまがカノアで良かったよ」
「その通りだぞカノア! あの時……水泳EXに目覚めたのがもしカノアでなかったのなら、私もラキも他の魔族も皆死んでいたかもしれんのだ! 確かに力を得たのは偶然かもしれん……。だが、カノアがそれを皆の為に使ったのは〝偶然ではない〟のだ……っ!」
「むぅ……そうなのか……」
もしかしたら、リズはさっきまで二人で話してたことを思い出したのかも。
俺のことを見上げながら、リズはどこか必死な感じで俺にそう言った。
「だなっ! アンタのそーいうのも今日の式典で発表するんだろ? 悪い奴らはみんな私がこのハンマーで吹っ飛ばしてやるから、アンタは大船に乗ったつもりで楽にしてればいいさ!」
呻く俺にリリーはそう言って、小さな子供みたいな感じで笑った――。