思惑と利害と
思惑と利害と

思惑と利害と

 

「これは皆様! ごきげんよう!」

「コケ!?」

「あなたは……」

 

 キリエ率いる光天騎士団こうてんきしだんと別れたシータ達は、数日をかけて連邦の復興拠点へと。

 そこで物資を補充すると、そのままイルレアルタとルーアトランが整備を受ける円卓外れの砦に無事帰還した。

 だが、そこで彼らを待っていたのは――。

 

「奇遇ですねぇ! 実は私もついさっきここにやってきたばかりなのですよ。ここの皆様から、独立騎士団の皆様がまだ戻られていないと聞いて、とても心を痛めていたところでした!」

「議長だと!?」

 

 そこに居たのは、長い金髪をオールバックに纏めた礼服姿の青年。

 エーテルリア連邦議長、セネカ・エルディティオその人だったのだ。

 

「貴殿のような立場ある者が、どうしてこのような前線近くまで来ているのだ!?」

「ふふん。前にも言ったでしょう? 私は自己保身しか頭にない他の皆様とは違うのです。たとえ危険だろうと、〝私が出向く必要があれば〟どんな場所にだって行きましょう!」

 

 あまりにも予想外の登場に、シータとリアンは長旅の疲れすら忘れて驚愕の声を上げた。

 いかに連邦の砦とはいえ、ここは円卓から目と鼻の先。

 いつ帝国の攻撃があるかもわからぬ戦場に、連邦の最高権力者が現れるなど前代未聞の事態である。

 

「それって……こんな所に議長さんが来る必要があったってことですか?」

「大ありですとも! なぜなら――」

「あれれー? どうしてセネカ議長がこんなところに? もしかして、ぼくたちを探しに来てくれたんですか?」

 

 その時。

 シータ達の後方から、相変わらずぼろぼろの姿ながら、すっかり元気を取り戻した様子の調査団の面々がやってくる。

 そして次にシータ達の前で繰り広げられたのは、彼らの常識からすれば到底信じがたい光景だった。

 

「ユリース様! ご無事で良かった……私どもの不手際で御身をこのような危険に晒してしまったこと、どうかお許しください……」

「そう畏まらないで下さい。ぼくならほら、ここにいるシータ君とリアンさんのおかげでぴんぴんしてますから!」

 

 シータとリアンへの態度とは打って変わり、セネカは今にもその場に膝を突かんばかりの勢いでユリースに頭を下げた。

 対するユリースは笑みを浮かべ、驚くシータとリアンの活躍を立てる余裕すら見せたのだ。

 

「ど、どういうことだ? 財団の理事長というのは、連邦の議長が頭を下げるほどに偉いのか!?」

「そんなことないですよ。ぼくとセネカ議長は、簡単に言えば〝ビジネスパートナー〟みたいなものですから」

「ビジネス?」

「コケ?」

「理事長の仰るとおり! 我々連邦にとって知識の回廊財団ギルディア・アン・ドルクラは最大のスポンサーなのですよ。連邦各地の福祉や産業、工業面においても多大な投資を頂いているのです!」

 

 セネカとユリースの言葉に、経済知識に疎いシータとリアン、さらにナナは三者同時に首を傾げる。

 人里離れた森と、連邦から遠く離れたエリンディアからやってきた二人は知らなくて当然だが、知識の回廊財団による経済支援は、連邦国民であれば誰もが知る〝公然の活動〟である。

 連邦が対帝国戦役である程度の抗戦を行えたのも、財団が持つ知識と財力を元に、〝帝国の次に天契機カイディルの量産を成し遂げた〟ことが大きい。

 

「我々連邦にとって、知識の回廊財団……ひいてはその長であるユリース様は、まさに今日の連邦を支える〝救い主〟のようなものなのです。ユリース様に万が一何かあれば、私の首が飛ぶ程度ではまっったく釣り合いが取れないのですよ!」

「あはは! それは大げさですよ。ぼくなんて、たまたまこの時期に理事長になったというだけで……もしぼくがいなくなっても、また他の誰かが引き継いでくれますから」

「いーえ! たとえそうだとしても、私にとって貴方は大切な友人でもあるのですから。連邦と財団の利害関係とは別に、友人の無事を心配するのは当然でのことでしょう?」

「ほうほう? 突然議長が出てきた時は驚いたが、そういう事情なら納得だ! 友達は大事だからな!!」

「ですね……僕もそう思います」

 

 互いの利害とは別に、友として前線までやってきたというセネカの言葉。

 それはこれまでセネカに近寄りがたい印象を抱いていたシータが、初めて共感を覚えた瞬間でもあった。

 

「そういうわけですから、シータさんとリアンさんもご苦労様でした。ここからは、この私が警護の者と共にユリース様を都までご案内しますので」

「今回は危ないところを助けて頂きありがとうございました! もし何かお困りのことがあれば、いつでもぼくの財団に相談しに来て下さい。もしかしたら、お力になれるかもしれませんからね!」

「わかりました。僕たちはここで復興のお手伝いを続けます。セネカさんとユリースさんもお気を付けて」

「ええ、ええ。戦いだけでなく、このような大変な作業を手伝って下さりありがとうございます。ここでの皆様の働きも、私が責任をもって〝大陸全土に宣伝〟しておきますからねぇ!」

 

 ――その言葉を残し、まるで嵐のように前線へと現れたセネカはユリースら調査団と共に都へと帰って行った。

 残されたシータとリアンは、マクハンマー率いる整備班と共に破損したイルレアルタとルーアトランの修復、及び復興支援を継続。

 二週間ほどの滞在は滞りなく進む。

 初日に発生したキリエとの遭遇のような事件もなく、独立騎士団は予定通りに支援日程を終えようとしていた。だが――。

 

「――大変だ! 二人とも、急いでイルレアルタとルーアトランの出撃準備をして!!」

「何事だ!?」

「マクハンマーさん? そんなに慌ててどうしたんですか?」

「コケコケー!?」

 

 だがしかし。

 明日にも帰還の途につこうというシータ達の元に、その〝凶報〟はもたらされた。

 

「たった今連邦の人が教えてくれたんだ! 円卓で復興作業中の連邦軍が、〝とんでもない大きさの天契機〟に襲われて……! しかも、そいつはそのまま他の村にも向かってるって!!」

 

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