そこにいたから
そこにいたから

そこにいたから

 

「ナーッハッハッハ! さすがこの私が心から信頼する二人だ! なにやら色々あったようだが、よくぞインフィニットギャラクシーエビを持ち帰ってくれたな! すぐにこの私がチョチョイと料理してやるから待っているのだっ!」

「はい、リズ様。ありがとうございます」

「すごい楽しみ。だけど、そのエビってこの後使うんじゃ……」

 

 夕方。

 無事にアパートに戻った俺達は、心配しながら待っていたリズに沢山褒められた。
 そして、ちゃんと持って帰ってきたインフィニットギャラクシーエビも渡せた。

 あのタコさん……バウハンナさんだっけ……とにかくあの人はあっさり帰った。
 それどころかあのタコさん、大人しくエビを俺達に渡した後、オルアクアの中から出てきたラキを見れて大喜びだったくらいで。

 

「それなら心配ありませんよ。インフィニットギャラクシーエビがなぜ究極の食材なのか……。それは、インフィニットギャラクシーエビが〝量子力学の影響下にある食材〟だからなんです」

「マジでさっぱり分かりません」

「カノアさんに難しい話は無理だと思うので割愛しますけど……簡単に言えば、上手く調理すれば一瞬で一匹のエビが無限に増えたりします」

「なにそれすごい」

「無限に増える不滅のエビ……だから僕達魔族の間では、インフィニットギャラクシーエビは食べ物を大切にする心と、実際に食べる物がない時に魔族を救ってくれた神の食材として崇められているんですよ」

「そうなんだ。じゃあ今食べても平気なんだ」

「そういうことです」

 

 むぅ……究極の食材って言うだけあって、本当に凄いんだな。

 とにかくエビが凄いことだけは分かった俺は、リズが上機嫌で料理する音を聞きながら、開かれた窓の外をぼーっと眺める。

 クリーム色のカーテンが潮風にぱたぱたなびいて、その向こうにはオレンジ色の空と、キラキラ光る海が見えた。

 それは俺でも綺麗だなって思うような景色で……こういうのが見えると、端っこの部屋で良かったかなって思ったりする。

 でも、そんな風に俺がぼーっと外の景色を椅子に座りながら眺めていると……。

 

「……先程は、ありがとうございました」

「……?」

「あのクイズ……。僕には答えが分かりませんでした。勉強や雑学には自信があったんですけど……」

「あ……いや。でも、俺もたまたまリズからこの前聞いただけで……。本当に偶然で……」

「それでもです。あのスキュラの言う通り、あのまま戦っていたとしても僕とオルアクアに勝機は薄かったと思います……。カノアさんがあの場に居てくれたからこそ、僕はまたリズ様の期待に応えられました……感謝します」

「そんな……。あそこにいたのだってたまたまだし……。ラキにも何度も助けて貰って、ずっと足手まといで……」

 

 突然、ラキはそう言って俺に頭を下げてきた。
 俺は本当に凄くびっくりして、あわあわすることしかできなかった。

 けど……そんな俺の様子を見たラキは、一度キッチンにいるリズの様子を伺うと、少し寂しそうに言ったんだ。

 

「そこに〝居る〟ことを選んだのは貴方です。確かに、その場に居ても何もできなかったり、足手まといになったりすることもあるでしょうけど……少なくとも今回は、カノアさんが居てくれたからなんとかなりました。それは紛れもない事実です」

「そうなのかな」

「そうですよ……。リズ様は……それが〝できなかった〟んですから……」

「え……?」

「独り言です。 ――ただ、今回のことでよく分かりました。カノアさんはやっぱりしょぼしょぼしてますし、水泳EXっていう凄い力があってもちょっと頼りない方です」

「しょぼしょぼ……」

「でも……」

 

 むぅ……あのタコさんにも言われたし、やっぱり俺ってしょぼしょぼしてるんだな……。

 だけどそこまで言ったラキは、俺を見て優しい感じで笑ってくれた。

 

「――でも、確かにリズ様の仰った通り、まあまあ〝いい人〟ではあるみたいですね。なのでこれからはこの僕が! リズ様にお仕えする従者としての心得や立ち居振る舞いをカノアさんに徹底的に叩き込んでいきますのでっ! 一緒に頑張りましょうね、カノアさんっ!」

「あ……結構です」

「クハハハハハハ! さあ出来たぞ二人とも! 光栄に思うが良い、このリズリセ・ウル・ティオーの作る究極の料理を日に二度も口に出来る者などそうそうおらんっ! 冷めないうちに、早速皆で食べるのだっ! あーっはっはっは!」

 

 目の前に運ばれてきた沢山のエビ料理。
 
 準備をして楽しそうに笑うリズと、そんなリズを見てやっぱり笑顔になるラキ。
 そして、そんな二人と一緒にいる俺……。

 

〝そこに居ることを選んだのは貴方です〟

 

 さっき、ラキから言われたその言葉……。

 俺はその言葉を思い出しながら……こんなに居心地のいい場所になら、それこそずっといたいなって思ってた――。

 

 

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